「日本の産業界はもう中国に追いつけない」6年ぶり現地取材で心底痛感した

短期集中連載ルポ第1回

井上 久男 ジャーナリスト

電子版ORIGINAL

ビジネス 中国 企業 テクノロジー

「中国寄り」と批判されるかもしれないが…

 7月初旬、米シリコンバレーと同様に数多くのベンチャー企業が立ち並ぶ中国・深圳を久しぶりに訪れた。ここには電気自動車(EV)最大手の米テスラを追い上げて、日本市場に軽自動車EVの投入を目論むBYDや、情報通信機器大手ファーウェイの本社もある。

 自動車産業を長らく取材している筆者は、2009年に中国が米国を抜いて世界一の自動車市場となって以来、毎年何度か取材で訪れていた。ところがコロナ禍のために、2019年3月の訪問を最後に中国行きが途絶えていた。今回、ようやく6年ぶりに現地取材を実現することができた。

 約1週間かけて、BYDやファーウェイはもちろん、世界最大の鋳造機メーカーや自動運転開発の関連企業なども訪れたのだが、この6年の間に、中国企業のあまりの変貌ぶりに驚かされた。感想を正直に表現すれば、「日本の産業界はあらゆる面で、もう中国に追いつくことができないのではないか」という危惧だった。こんなことを言えば、「中国寄り」と批判されるかもしれないが、これが筆者の見た“リアル”である。

 筆者を驚かせた中国EV業界の最前線を、これから3回にわたってレポートする。

配車されたのは無人運転のロボット・タクシー

 BYD本社を訪れた後、通訳を兼ねた中国人ガイドがスマートフォンのアプリでタクシーを呼んでくれた。配車されたのは無人運転のロボット・タクシーだ。「中国のグーグル」と言われる「百度(バイドゥ)」が開発した自動運転プラットフォーム「アポロ」が搭載されている。百度は深圳のほかにも北京などの大都市で無人運転タクシー事業を開始している。もちろん海外展開も狙っており、2025年3月にはアラブ首長国連邦(UAE)でサービスを開始する計画を発表した。

深圳を走るロボタク(筆者撮影)

 無人運転に多少の不安を抱きつつ乗り込んだ。スマホに行き先を入力すると、自動で発車する仕組みのはずなのだが、ホテルの名前を入力してもなかなか発車しない。その理由は後部座席に乗った筆者にあった。シートベルトをするのを忘れていたのだ。慌ててシートベルトを締めると、ロボタクは走り出した。

「車内が少し暑いですね」と筆者が言うと、ガイドが中国語で何やら指示をする。音声認識でエアコンを操作しているのだ。車内が涼しくなり、ロボタクは一般道をスイスイと走っていく。速度計を見ていると、時速59kmを超えることがない。おそらく規制と安全対策のために時速60km未満に設定されているのだろう。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ビジネス 中国 企業 テクノロジー