著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、細谷亮太さん(小児科医)です。
父(オヤジ)は明治が大正に変わって1月半ほど経った9月16日、山形県河北町で開業医の細谷喜三郎とゆきの長男として生まれる。明治17年生の祖父は医術開業試験に合格し20歳の若さで開業医になる。酒はだめだが女好きで花街に入りびたりだったようだ。祖母ゆきは2番目の妻だ。彼女は横浜の女学校を卒業した、田舎では珍らしい進歩的な女性だった。
2人の間に父、憲一が長男として誕生する。ぼくの医学部の同級生が「日本醫籍録第1版(大正14年)に細谷君のおじいちゃんが載ってた」と言って、コピーを送ってくれた事がある。それぞれの卒業校、専門領域の記載がある。祖父の専門は[内科、殊に花柳病]とあり思わず苦笑。それほどだから、父と叔父が生まれても祖父の女遊びは止まる所を知らず、祖母は子ども2人を連れて家を出る。しかし、田舎の旧家の跡取り息子である。親族総出で父を連れ戻すべく画策し、それが効を奏し祖母から引き離されて父の辛い生活が始まる。
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source : 文藝春秋 2019年12月号