2025年のノーベル生理学・医学賞に、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授が選ばれました。坂口特任教授による解説記事を再掲します(初出:文藝春秋2016年7月号)。
“国民病”ともいわれる花粉症。その新しい治療法の鍵を握るのが、『アレルギー医療革命』(小社刊)でも「アレルギーの常識を変えた」と紹介された免疫細胞「Tレグ」だ。このTレグの発見者で昨年、ノーベル賞の前哨戦といわれるガードナー国際賞、トムソン・ロイター引用栄誉賞をW受賞した、大阪大学の坂口志文教授が、アレルギー治療の未来を解説する。
花粉症は1980年代から急激に増え、いまでは日本人のおよそ4人に1人が発症するといわれます。日本と同様に、他の先進国もこの数十年でアレルギー患者は急増しました。これは社会が衛生的になり、雑菌などに触れる機会が減ったせいともいわれますが、その「衛生仮説」も、「Tレグ(制御性T細胞)」と呼ばれる免疫細胞の発見により、よりクリアに説明できるようになりました。
では、Tレグがこれまでの考え方をどう変えたのか、アレルギーとの関係について簡単に解説しておきましょう。

免疫細胞は、よく軍隊に喩えられるように「パトロール隊」「司令官」、そして攻撃の「実働部隊」などの役割を持っています。例えば傷口から細菌が侵入すると、血管やリンパ腺にいる「パトロール隊」が捕らえ、「司令官」のT細胞に「こんな異物が侵入しました」と報告します。そのときT細胞が有害だと判断すれば、「実働部隊」に攻撃命令を出します。
しかし、スギ花粉など有害でない異物まで「実働部隊」が誤って攻撃してしまうのがアレルギー反応です。花粉症だけでなく、自己免疫疾患と呼ばれる病気も、ほぼ同じ原因で起こります。例えば1型糖尿病や膠原病、安倍首相も罹った炎症性腸炎はその一つです。

なぜ、誤って有害でない物質まで免疫細胞が攻撃してしまうのか。
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source : 文藝春秋 2016年7月号

