文学が社会に戻ってきた

與那覇 潤 評論家

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エンタメ 読書

『関係のないこと』上田岳弘/新潮社

『他人の手帳は「密」の味』志良堂正史/小学館新書

『プロレタリア文学セレクション』荒木優太編/平凡社ライブラリー

 文学が社会に戻ってきた年だった。むろん、売上とかの話じゃない。

 短編5つを収めた『関係のないこと』のうち、2つは新型コロナウイルス禍を背景にしたバーが舞台。店で語られる人生のどこまでが事実か、読者にはわからない。

 表題作「関係のないこと」で、主人公の先輩は途中から「天井のない監獄」の話題にとり憑かれ、心身の平衡を崩す。ガザ紛争に注がれる世界の視線に同一化するあまり、個人の立場で現実に線を引けなくなる。

 

 疫病や戦争など、関心を持たないことは「ありえない」とされる公の領域が生活を埋め尽くし、ファクト以外を「語るな」とされて、私的な感じ方は表に出すのを禁じられる。そんな時代は文学を足蹴にして、いま振り返れば怪しい「科学もどき」の解説ばかりを、垂れ流した。

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source : 文藝春秋 2026年1月号

genre : エンタメ 読書