日本的政治構造の両義性
ついに石破内閣の退陣が決まり、自民党の総裁選が始まった。この文章が出る頃には、その結果も明らかになっているだろうが、日本のリーダーの資質を考える時、いつも私が思い出す本が、河合隼雄の『中空構造日本の深層』である。
多様な論考を集めた評論集を一言で纏めるのは難しいが、言ってみれば、この本の主題は、日本人が無意識に育ててきた政治的性格(何がその利点で、何が欠点なのか)についての分析である。
分析の際、河合隼雄は、いかにもユング派の心理学者らしく、私たちの深層心理のあり方を、日本最古の神話である『古事記』のなかに求める。そして、その際に見出されるのが、日本神話における「中空構造」というものだった。

たとえば、アメノミナカヌシ、タカミムスヒ、カミムスヒの三神の内、なぜか、『古事記』冒頭に挙げられる第一の神アメノミナカヌシの記述だけがないのである。あるいは、アマテラス(天照)、ツクヨミ(月神)、スサノヲ(素戔嗚)の三神の場合、日本人は情緒的には太陽よりも月の方を重視してきたにもかかわらず、なぜか『古事記』のなかにはツクヨミの物語がほぼ現れないのだ。そこで河合は、この「中心が無為である」という日本神話のなかに、日本人独特の「中空構造」への嗜好を見出すのである。
そのうえで河合は、その「中空」(鏡)の周りに男性原理(剣)と女性原理(勾玉)とを配置する神話の構造を見て取り、その二元性を、正反合の弁証法としてではなく、正と反とが対立と融和を繰り返す日本的物語として解釈するのだった。
この中空性は、むろん「天皇制」の構造でもあるわけだが、河合は、それを日本の地域社会、政党組織、会社組織のなかにも指摘することになる。そして、もちろん、この中空構造の利点は、中空がエネルギー(生命力)で充たされている限りは、周囲が平衡することだが、逆にその欠点は、中空がカラッポになってしまうと、そこに統合性のない「無責任体制」が現れてしまうことであった。
しかし、それなら、私たちが私たち自身の〈中空=リーダー〉を選ぼうとするときに見極めるべき点も明らかだろう。その人間が「剣」(厳しさ)と「勾玉」(優しさ)とを使い分けることのできる「鏡」なのか、それとも単にカラッポな中空なのか、そこがクリティカル・ポイントだということだ。「鏡」は自他を正確に映し出すが、カラッポは、自らの空虚を埋め合わせるために外の権力に頼りだす。
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