たしかにそこにある現実

村上 靖彦 精神分析学・現象学者

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エンタメ 読書

『部落フェミニズム』熊本理抄編著/エトセトラブックス

『傷はそこにある 交差する逆境・横断するケア』大嶋栄子/日本評論社

『ホームレス文化』小川てつオ/キョートット出版

 見ないようにしているけれどもたしかにそこにある日本の現実を語る3冊を選んだ。

『部落フェミニズム』。圧倒的な書物だった。被差別部落にルーツをもつ、あるいは部落内に生まれて差別や排除を経験した女性たち9人が執筆した書物だ。部落の内と外、女性であることや障害をもつことによるインターセクショナリティ、部落出身者とそうでない人との恋愛・結婚、さまざまに複雑な状況のなかで、何世代にもわたって不可視化されてきた痛みがある。

 

 差別、貧困や教育機会の喪失、性差別や性暴力の隠蔽の複雑なありようが語られる。「部落」という言葉が出ないまま営まれる生活の襞や、識字教室を通して女性たちがえた力も伝わってくる。今なお痛む女性たちが刻む言葉を、マジョリティ男性の僕がどのような立ち位置で受け止めたらよいのだろうか。

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source : 文藝春秋 2026年1月号

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