アニメ『白蛇伝』生みの親

復活拡大版27組 オヤジ編

山根 一眞 ノンフィクション作家
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親子のかたちは時代を映す。昭和59年から40年続いた長寿連載、一号限りの豪華リバイバル

 映画に詳しい友人に、私の父(山根章弘、本名・山根能文、ペンネーム・上原信、大正七年生)が長編アニメ『白蛇伝』(東映、1958年公開)の制作に携わったが、「詳しい話を聞いたことはない」と口にしたところ、「話を聞いておかなくちゃだめだ!」と𠮟責に近い助言を受けた。『白蛇伝』は日本アニメの原点。宮﨑駿さんがこれを見てアニメ製作者を目指したことは広く知られている。

 父は終戦直後、欧州人形劇団「テアトル・プッペ」を立ち上げ幅広い公演活動を行っており、我家は後に名をあげる若い芸術家たちのたまり場でもあった。後、父と人形劇団員の一部が東映に招聘されたが、父は東映の大川博社長を説得して『白蛇伝』を手がけたのである。あえて父に聞こうと思わなかったのは、父のチームが当初は我家でも『白蛇伝』の作業をしていたので、『白蛇伝』が小学生時代の我家の「日常」の一コマにすぎなかったからだ。

山根一眞氏(本人提供)

 だが、友人の助言で父に『白蛇伝』について聞くことにし、2000年5月28日、それが実現した。81歳になる父が大型プロジェクターで投影した『白蛇伝』を見ながら語り続けた内容は実に新鮮だった。「じっくり聞いて本にしよう」と思ったが手遅れだった。その3日後、父は脳梗塞で倒れ言語機能を喪失したまま2年後に他界したからだ。

 ところがその十数年後、父の遺品整理中、『白蛇伝』の構想時からの制作記録と資料を山と発見した。数十冊の手帳の1冊には『白蛇伝』の構想初期から完成までの出来事が1日も漏らさず書き記してあった。それらを見た国立映画アーカイブ(独立行政法人国立美術館運営)の専門家は「日本アニメ史上、奇跡の大発見」と驚いていた。となれば、息子である私には膨大な記録を本にまとめ後世に遺す責務があると決意したが、父に存分に聞いておくべきだったという無念の思いが大きい。何しろ私の仕事は、人の話を聞いて本にすることなのだから。

 1991年、私は週刊誌で『メタルカラーの時代』という対談連載を始めた。世界最高の日本の「ものつくり」を担う技術者に数時間(時に10時間以上)「話を聞き」、自ら対談形式で書き続けた連載は784回、単行本と文庫本を24冊出版した。そのきっかけは、もう1人の「父」なのである。結婚すれば多くの場合、父は2人になる。「実父」と「義父」だ。

 義父、中村康治(明治45年生)は、横浜国立大学の機械工学者(材料力学)で、軟派系の実父とは正反対、昭和40年~44年に第四代学長も務めたガチガチの硬派工学者だった。毎年、お正月、義父の教え子たちは北鎌倉の義父の家に集い、競うように企業で手がけた技術開発の自慢話を続けるのが常だった。文系の私には何もかもが新鮮で面白かった。これは一般読者にわかりやすく伝えたらウケると確信し、予想通りそれは16年半も続いたのである。

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source : 文藝春秋 2026年1月号

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