宮﨑駿監督と庵野秀明監督

大反響 『君たちはどう生きるか』作画監督インタビュー第2弾

本田 雄 アニメーター
エンタメ 映画

「電気で絵を描いたって誰も褒めてくれないぞ」凄腕の“アニメ職人”が明かした、2人の巨匠の真実(9月号より続く後編)

 本田 思えば「動く絵」の面白さに気付いた最初のきっかけが『未来少年コナン』だったんです。小学校5年生のとき、テレビでたまたま見ました。『アルプスの少女ハイジ』のようなキャラクターなのに、おもしろい動きをさせていて、しかも最終戦争後の世界を描いた不思議なSFだった。足の指で物をつまんだりするコナンの動きが面白くてね。

 今思えば、初めて見た宮﨑作品です。『ルパン三世 カリオストロの城』も大好きでした。やっぱりルパンのコミカルなアクションにハマった。それまでのアニメ表現とはまったく違いました。当時はノートに漫画を模写したりしていた“漫画少年”でしたが、そこから一気に“アニメっ子”になりました。

本田雄氏 ©文藝春秋

 ジブリ作品への思い入れはやはり強いです。小学生時代から宮﨑アニメに触れてきたわけですからね。これまでもアニメーターとして『崖の上のポニョ』や『毛虫のボロ』などに参加させてもらいましたが、『君たちはどう生きるか』は宮﨑監督の10年ぶりの長編映画。その作画監督を任されたわけですから、気合いは入っていました。すべての絵を自分一人で描くつもりでやりました。

 宮﨑駿監督(82)の最新作『君たちはどう生きるか』が、72億円の興行収入を達成する大ヒットとなっている。「全編手描き」の絵が素晴らしく、謎が多い物語にもかかわらず、その迫力満点の表現で観客を冒険世界へぐいぐいと引き込む、アニメ本来の魅力を実感させられる大作だ。

 本誌前月号では、同作の作画監督を務めた本田雄氏(55)への3時間に渡るインタビューの前編を掲載。2017年の始動から作品が完成するまで、6年にわたる巨匠・宮﨑駿との“真剣勝負”の日々を振り返った。

 本田氏は同業者からは「師匠」と呼ばれる名うてのアニメーターだ。宮﨑監督だけでなく、庵野秀明監督、今敏監督、押井守監督といった日本アニメーション界を代表する作家のもとで仕事を続けてきた。『君たち』の作画監督を引き受ける直前は、20年近く関わった庵野監督の「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの最新作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の作画監督を務めることが内定していた。だが、本田氏は『君たち』に参加するため、所属していた制作会社カラーからスタジオジブリへの移籍を決意した。

 大仕事を終えた本田氏の脳裏にいま去来するものは何か。2人の天才監督から確かな腕を評価された“アニメ職人”の本音を聞いた。

ガンダムの衝撃

 本田 『風の谷のナウシカ』も『天空の城ラピュタ』も『名探偵ホームズ』も、全部大好きでした。でも、宮﨑アニメ以外にもいろいろみましたよ。『幻魔大戦』『AKIRA』『超時空要塞マクロス』『宇宙戦艦ヤマト』……80年代の日本にはすごいアニメがたくさんありました。でも、衝撃的だったのは、何と言っても、『機動戦士ガンダム』です。ガンダムには様々なシリーズがありますが、私が好きなのは「一年戦争」を描いた、いわゆる“ファースト・ガンダム”。特に中学生の頃に観た、劇場版3部作が決定的でした。

 ロボットものではあるけれど、いわゆる勧善懲悪ではなく、構造的に戦争を描いた、大人向けのアニメでした。当時はまだ子供だったので、ストーリーもよく理解できていなかったし、「ミノフスキー粒子が散布されているから、宇宙空間でのレーダー探知が不能」といった架空の設定ももちろんよくわかっていなかった。この設定のお蔭で、宇宙空間でのモビルスーツ(ロボット)同士の近接戦闘の必要性が出てくるので、同じ画面の中でガンダムと敵が戦うという絵を描くことができる。そのために富野由悠季監督がつくった設定なんですね。大人になって知ったのですが、「ミノフスキー粒子」って、富野さんの苗字から「ミノ」をとった造語なんです(笑)。

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source : 文藝春秋 2023年10月号

genre : エンタメ 映画