9割の衣類は家で洗える
洗濯は一日の家事の中で実は一番時間がかかる。洗う、干す、たたむ、収納する。工程も多く、待ち時間も長い。そして何より洗濯のクオリティはQOL(生活の質)に直結する。最近は、男性が洗濯することも珍しくなくなってきたが、洗濯について学ぶ機会はめったにない。多くの人が洗濯機の取扱説明書を読むだけだろう。
シャツが黄ばんだり、イヤな臭いがついたりすると、QOLが下がるだけでなく、周囲の人に知らず知らずのうちに迷惑をかけていることもある。しかし、解決策を求めてインターネットを見ても、何を信じていいのかわからない。やはり、信頼できるプロに話を聞いてみたい。
そこで今回編集部が訪ねたのは、「洗濯ブラザーズ」の次男で、クリーニング店「リブレ」代表の茂木康之さん。「洗濯ブラザーズ」はプロの洗濯集団。縮小を続けるクリーニング業界で、新たな洗濯のあり方を生み出すべく日夜奮闘している。『劇団四季』や『シルク・ドゥ・ソレイユ』をはじめとして、国内外の有名アーティストの衣装クリーニングを行い、1点しかないステージ衣装を絶対に失敗できない条件下で洗い続けてきた。劇団四季からの「衣装を5年変わらず着られる洗い方を考えてほしい」というリクエストに応える中で、「水に触れる時間を圧倒的に少なくしながら、汗汚れも落とす水洗い」に辿り着いた。茂木さんは開口一番、「クリーニング店に頼まなくても、9割の衣類は家で洗えます」と切り出した。
茂木 読者の方にも、クリーニング店を利用される方は多くいらっしゃるでしょう。これはご存じない方が多いのですが、実は、衣類の汗汚れはドライクリーニングでは落ちません。ドライクリーニングは石油由来の有機溶剤を使います。これは基本的に油性の汚れを落とすもので、汗汚れや雨の汚れなど水溶性の汚れは落ちません。クリーニング店には「汗抜き」オプションがありますが、あれはドライクリーニングをした上で水を使って洗っています。
私たちのお店のお客様で、シャツやスーツの黄ばみが気になって、クリーニングに何度も出す方がいらっしゃいました。これは汗や皮脂の汚れが硬化したもので、ドライクリーニングでは取れません。水洗いが一番です。
ドライクリーニングで水を使わないのは、水を使用すると生地をいためやすいからです。日本の軟水は繊維の奥まで浸透していき、生地の形状を変えてしまいます。その分、洗浄力は硬水よりもはるかに高い。
ドライクリーニングでは、溶剤が繊維の表層だけをなぞって汚れを落とします。そのため衣類へのダメージを最小限にできる。汚れをきっちり落とすことと、生地がいたまないようにすることを両立させるのは、至難の業です。世の中のクリーニング屋さん、洗濯屋さんは皆このジレンマと日々格闘しています。

長年の試行錯誤を経て、洗濯ブラザーズは、水洗いで汚れをきっちり落とし、かつ生地をなるべくいためない洗濯法に到達しました。私たちの店に持ち込まれる衣類の9割は水洗いで洗濯しています。水洗いですから、家庭でも再現可能です。布団、スーツや学生服も家庭で洗おうと思えば洗えます。
これからお話しする洗濯法を身につければ、衣類が清潔できれいになるだけでなく、衣類の寿命も延びます。その上、クリーニング代も節約できます。
汚れはなぜ落ちるのか?
茂木 まず私から質問です。洗濯機は、洗い→すすぎ→脱水という工程で進んでいきます。どの工程で汚れが落ちると思いますか?
Q.「洗い」でしょうか?
茂木 「洗い」では、汚れが浮かび上がっているだけで、落ちてはいません。正解は「すすぎ」と「脱水」。「すすぎ」で、衣類から浮かび上がらせた汚れを水に移し、「脱水」でその汚れた水を衣類から抜いているんです。ですから、衣類から浮き上がらせた汚れをちゃんと落とすためには、汚れが移るための水を十分に用意しなければなりません。水が少ないと、汚れが水に移らず、衣類に戻ってしまいます。「水量は多めに!」と僕らが口をすっぱくして言うのは、そのためです。

でも、実は日本の洗濯機は、水道代が節約できることを大きなアピールポイントにしているので、推奨されているコースで洗濯すると、必要最小限の水しか使わないようになっています。ですから、どうも汚れや臭いが十分に落ちていないな、と思ったら、マニュアル設定で水量を増やしてください。満水でもいいくらいです。
縦型洗濯機がおすすめ
Q.洗剤も多めにした方がいいのでしょうか?
茂木 それはダメです。洗剤が多すぎると、泡が立ちすぎて、逆に衣類から浮かび上がった汚れが水に移りにくくなってしまうからです。しかも、洗剤そのものが衣類に残りやすくなり、黄ばみの発生源になったり、部屋干し臭の元となるモラクセラ菌の栄養源になったりします。ですから、「水はなるべく多めに、洗剤は少なめに」が鉄則です。ちなみに、「洗剤は少なめ」にして、すすいだ後に残らない方が汚れも落ちやすい、ということは、ドラム式洗濯機の洗浄力の弱さをどうにかしようとしていた時に発見しました。
Q.洗濯の原理はよくわかりました。洗濯機はどのように選べばいいですか?
茂木 汚れを落とすことを最優先に考えるなら、ドラム式洗濯機よりも縦型洗濯機がおすすめです。ドラム式は乾燥機がついていて、時短になるので、忙しい共働き家庭などには人気です。でも、使う水量が縦型の半分なので、汚れが落ちにくい。つまり、ドラム式の方が縦型よりも洗浄力が弱い。
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