岐路に立つアメリカのサイエンス、日本に必要な一手は

スター科学者の世界的な争奪戦が始まった

緑 慎也 サイエンスジャーナリスト

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いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

 トランプ政権は、米国の科学研究に混乱をもたらしている。NIH(国立衛生研究所)で予算の40%削減(約270億ドル)、NSF(国立科学財団)では55%削減(約40億ドル)が提案され、実際にNIHでは1389件、NSFでは1400件超の助成金が停止された。NASA(航空宇宙局)、CDC(疾病予防管理センター)、NIH、NOAA(海洋大気庁)など主要機関で数千人が職を失った。

 標的にされる分野の一つは気候科学だ。パリ協定からの離脱表明に加えて、100件以上の気候研究プロジェクトが打ち切られた。公衆衛生分野でも、NIHの資金制限により感染症対策やワクチン研究が停滞。宇宙開発では火星の有人探査に軸足を移した結果、日米で共同開発を進めてきた月探査のアルテミス計画が宙に浮く余波も出た。

 議会の承認の前から研究現場ではすでに深刻な影響が広がっている。助成金の見通しが立たないために、採用予定だったポスドクや大学院生の受け入れを見送る研究室が相次ぎ、実験計画の中止や国際共同研究からの離脱も報告されている。

緑慎也氏 ©文藝春秋

 米国の科学基盤が損なわれつつある――。そんな科学界からの悲鳴を尻目に、政権は大統領令で「ゴールド・スタンダード・サイエンス」なるスローガンを掲げる。表向きは透明性や再現性を重視する政策だが、実態は政治任用官が資金配分に介入できる仕組みである。「これは条件を満たさない」などとすれば、予算・人員削減を正当化できるからだ。

 科学誌ネイチャーが3月に発表した調査結果によると米国研究者の実に75%(4人に3人)が国外移転を検討しているという。すでに国外移籍を果たした研究者も報じられている。米国科学界の空洞化は避けられないだろう。かつて米国は、ナチスに迫害されたユダヤ人科学者を受け入れて戦後の繁栄を築いた。その米国が将来、科学における世界的リーダーの地位を失い、イノベーションが枯渇し、国家安全保障が弱体化することになれば、皮肉な歴史の反転となる。

 一方、米国から流出する研究者を取り込むため、積極的な政策を打ち出す国も出てきた。カナダは「Canada Leads 100 Challenge」を立ち上げ、3000万カナダドルを投じ、米国から若手研究者を100人規模で招聘する。EUは5億ユーロ(約870億円)の基金を設立し、長期的な研究費を支援する「Choose Europe for Science」を推進する。フランスの「Safe Place for Science」や、ドイツを代表する研究機関「マックス・プランク協会」のプログラムには、米国からの応募が倍増しているようだ。

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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

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