“暴れ獅子”トランプと“女豹”高市の生きるか死ぬか

特集 ジャングル時代の生存戦略はここにある!

池上 彰 ジャーナリスト
佐藤 優 作家・元外務省主任分析官

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欧米に潜む「イランのテロ組織」は動くのか

 池上 イラン攻撃をめぐって、トランプ米大統領が“やりたい放題”です。日本を含む同盟国にホルムズ海峡への艦船派遣を渋られ、不満を露わにしていたトランプと、先進7カ国(G7)の首脳として初めて対面で会談することになったのが、高市早苗首相でした。

 佐藤 現状において、インテリジェンスの観点からは、満点を付けていい内容の会談でした。長く宥和的だった日本の対イラン政策が、過去に捉われることなく厳しい姿勢に転じた。民主主義や人権重視の価値観外交から、近年の日本外交が模索してきたトランプ以降の新帝国主義に即したリアリズム外交への転換が、高市政権で完成したと思います。

 池上 絶賛ですね(笑)。

 佐藤 もう一つ、自衛隊の艦船を出す約束をしなかったと同時に、「出さない」約束もしなかった点も評価できる。外交技術上、状況が流動的である場合には、1枚でも多くのカードを持っておくのが肝要。今回の高市首相は、手持ちのカードを1枚も切ることなく、当面の危機を脱することに成功しました。

 池上 最大限のフリーハンドを確保した点は、私も評価します。一方で、人目も憚らずにハグをする高市首相のトランプに対する態度は、日本国民として恥ずかしかったですよ。「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」とまで絶賛する必要があったのか。ひたすらゴマをすっているように見えました。

 佐藤 ゴマすりでなく、本当にそう認識している可能性もあります。視点を変えれば、今回のイラン攻撃は、1979年のイラン・イスラム革命以来、中東ひいては世界を悩ませてきた戦争の根っこ、つまりイランとイスラエルの争いを根本から除去するかもしれない、と。もし、これが第五次中東戦争や第三次世界大戦の火種を消したのだとすれば、トランプは「世界中に平和と繁栄をもたらした」という理屈も成り立ちますから。

佐藤優氏 Ⓒ文藝春秋

 池上 日米関係を壊さないための苦渋の選択だったことは理解できますが、もう少し言い方があったのではないか、とも感じてしまいます。

 佐藤 高市首相は不規則発言をしたわけではなく、あくまで情報機関の報告に基づいたうえで、日本ができる最大限の対応をしたと見るべきです。現在の日本のインテリジェンス機関は優秀ですよ。情報の収集と分析を行う内閣情報調査室(内調)と、政策判断を行う国家安全保障局(NSS)の情報分析は非常に正確です。中でも内調を率いる内閣情報官の原和也氏とNSS局長の市川恵一氏のコンビは非常に優秀です。

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 池上 トランプは今回の攻撃に際して「イランの差し迫った脅威を排除し、米国民を守る」という言い方をしました。ただ、昨年6月にアメリカとイスラエルがイランを攻撃した12日間戦争で核施設を爆撃した時は「核施設を完全に破壊した」と宣言していて、国防総省の情報部が「まだ十分に破壊されていない」と評価したとの情報が流出したら責任者をクビにしました。今もイランが核兵器を持っているのならば、自分の発言は嘘だったことになります。

 日米首脳会談でも「なぜ同盟国に攻撃を教えてくれなかったのか」という日本メディアの質問に、真珠湾攻撃を引き合いに「あの時、日本がアメリカに伝えたか?」という趣旨の発言をしました。真珠湾攻撃もそうだろ、と居直るのは、今回のイラン攻撃でも卑怯なことをした自覚があることの裏返しです。数々のめちゃくちゃな発言に話を合わせる高市首相は大変だっただろうな、と思うと同時に、絡めとられる危うさも感じます。

 佐藤 人類学者で、生態学者でもあったグレゴリー・ベイトソンは「キューバ危機とタコの喧嘩の類似性」に関する論文を書いています。すなわち、言葉を信用できなくなった国家間の行動は、動物に近くなるというわけです。

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source : 文藝春秋 2026年5月号

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