「イスラエルから、いま攻撃がありました」
「イスラエルから、いま攻撃がありました。テヘラン日本人学校の派遣教員と、子どもたちの安否確認をしてください」
昨年6月13日の午前3時過ぎ、在イラン日本大使館からの電話でした。「今、何が起きているのか」「これからの学校はどうなるのか」などさまざまなことが頭をめぐる中で、安否確認をしました。当時はまだ、これがアメリカも参戦することになる「12日間戦争」の始まりだとは思ってもいませんでした。
ミサイル攻撃が連日続く中、やっとバスでテヘランから脱出するときに見た光景は、いまでも忘れられません。市民の多くが疎開して、普段は大渋滞の通りが閑散としています。すると空っぽになった街で、鮮やかな色の作業着姿の人たちが、街路樹や花に水撒きをして、ゴミを収集していました。一体この人たちは誰なのか――。
テヘラン日本人学校の校長を務めた西田隆之氏は、2023年4月から3年間の任期中、4度の国外退避を強いられた。今年2月末からイスラエルとアメリカによる攻撃が続く中、今年度、学校は休校状態となったが、西田氏はいまも毎日、現地と連絡を取っている。
なぜテヘランで校長をしていたのか。きっかけは、30代の頃に韓国のソウル日本人学校に赴任して、現地の教育素材を使って授業ができるダイナミックさに魅了されたことです。いつか日本人学校の校長になって自由な教育をしてみたいと考えていました。3年前、兵庫・丹波市立中央小学校の校長を58歳で早期退職し、温めていた夢を叶えようと、文部科学省の募集に応募しました。
どこに派遣されるか、決まるまで分かりません。赴任する4カ月前に届いた採用通知に、「テヘラン日本人学校」と書かれていました。妻も同行する予定だったので、イスラム圏での生活は窮屈ではないかと少し心配したことを覚えています。

初めて降り立ったテヘランは、思い描いていた“砂漠の国”とは、まるで違っていました。車が行き交う中に樹木が生い茂る緑の街で、ピンクや黄色のバラが香り高く咲いていました。宗教上、豚肉は口にできませんが、羊肉が多く売られていて、ケバブが美味しい。
経済制裁で工業生産が厳しいかと思いきや、国内自動車メーカーが複数あり、テヘランでは渋滞が絶えません。新型航空機を輸入できなくても、50年ほど前の機体を何度も修理して飛ばしている。自前で何でも賄える、技術力の高い国なんです。
初代校長はイラン大使
テヘラン日本人学校は、正式には「在イラン日本国大使館附属日本人学校」です。通常、日本人学校は企業や日本人会が立ち上げるものですが、テヘランは初代校長が大使という珍しい学校です。今は文科省が教員を派遣し、「テヘラン日本人会」の協力のもとに運営しています。
学校は外国人が多く住むテヘラン北部にあり、教員は派遣された日本人6名と、現地採用の日本人音楽講師、英語、美術を教える非常勤のイラン人です。美術では工芸センターで指導している方が授業をしてくれて、美しいタイルのモスクが有名なイランらしく、焼き物体験をしました。こうした現地の文化を取り入れられる点が日本人学校の魅力の一つでもあります。
児童生徒は少なく、ほぼマンツーマン指導です。いくつかの商社が撤退したことで、日本人家族がだいぶ減りました。伊藤忠商事、丸紅、住友商事などの商社やJT、そしてNHK、共同通信、朝日新聞、読売新聞などのメディアが、テヘランに駐在員をおいています。
最初の退避は赴任から1年がたった2024年。4月14日の午前3時、領事から電話が入りました。
「先ほどイスラエルから攻撃があったので、今日の入学式は延期してください」
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