きっかけは個人事業主への税務調査だった
神戸ポートタワーに近い兵庫県・神戸港の発着場から遊覧船に乗り込むと、間もなくして陸側の右手に川崎重工業神戸工場が見えてくる。阪神甲子園球場が9個分入る約36万平方メートルの広大な敷地に建つ、船舶などを製造する川重の拠点工場の一つである。
遊覧船から眺めて目を惹いたのは、岸壁の浮きドックに接岸された長さ80メートルを超す海上自衛隊潜水艦の真っ黒な巨体だ。三菱重工業とともに日本の潜水艦建造を担い、防衛産業の中核メーカーである川重は、現在就航中の海自潜水艦を13隻、この神戸工場で建造した。川重製の各潜水艦は、年に一度の年次検査と、3年に一度の定期検査のために、定期的に神戸工場に入り、点検・修理を受けている。

朝日新聞は2024年7月、川重がこの工場を舞台にして、潜水艦乗組員らへの過剰接待のために、架空取引を繰り返して裏金作りをしていた件をいち早く報じた。当時、大阪本社社会部の国税担当記者だった私が手掛けたものだ。
長年にわたり水面下で続けられた川重の裏金工作が発覚したのは、実は兵庫税務署の調査官が行った神戸市内の個人事業主への調査が発端だった。調査は川重とまったく関係なく、2023年秋ごろに始まった。
川重神戸工場があるのは神戸市中央区だが、その隣の兵庫区にある兵庫税務署。個人課税部門に所属する調査官Xは、署の方針で管内の無申告の個人事業主に問題がないかどうかを横断的に調べることになった。
「発火点」となった架空取引
その日は、作業現場に労働者を派遣する、いわゆる「人夫出し」をしている個人事業主Yに電話連絡をしてから訪問した。特に狙いをつけていた訳でもなく、一連の調査の段取り通り、Yの経理資料や取引記録を調べはじめた。
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