国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
4月20日、ニッポン放送の「辛坊治郎ズーム そこまで言うか!」で辛坊さんが自分の趣味を語り、〈ピアノもですね、驚くほどに、うちの愚妻が驚くほどにですね〔上達した〕〉と発言しました(「女性自身」ウェブ版・22日)。この「愚妻」という表現を嫌ったリスナーのSNS投稿が拡散され、時ならぬ「愚妻」論争が起こりました。
批判派は〈「愚妻」とは言っても「愚夫」とはあまり言わない〉、擁護派は〈女性差別とは関係ない謙遜〉(上掲記事)といったところが目立った主張です。「では、飯間はどう考えるのか」と聞かれたので、私もSNSでいささか発言しました。
私は、「愚妻」を絶対に使ってはいけないことばだ、とまでは思いません。でも、先の意見にもありますが、「愚夫」を謙譲語として使う習慣が社会的にないなか、「愚妻」だけが使われるのは非対称的で、不公平だとは考えます。
『日本国語大辞典』第2版で「愚夫」を引くと〈おろかな男。無知な夫〉に続き〈また、自分の夫をへりくだっていうのにも用いる〉と説明されています。ただ、過去も現在も、「愚夫」の多くの例は「愚かな男」の意味で使われ、「夫」の謙譲語の例はごくわずかです。
武野藤介の小説「こんにち貞女」(1959年)には、夫のことを〈愚夫、愚夫といっている〉という友人の噂話が出てきます。これもあくまで、珍しく面白い例として使われているのです。
夫の力が強かった明治民法下では、妻の側が夫を「愚夫」と呼ぶことは社会慣習に合わなかったし、また、戦後も冗談のように受け取られました。夫の側が「愚妻」を一般的な謙譲語として使っていたのとは大きな差があります。
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