国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
井上ひさし作の戯曲「国語事件殺人辞典」がこの春、こまつ座によって44年ぶりに再演され、好評を博しました(演出・大河内直子)。私は故あって、東京ではなく高崎芸術劇場で観覧する機会を得ました。期待を上回る内容で、一生記憶に残る舞台になると思います。
長ぜりふを速射砲のようにしゃべる登場人物たちには度肝を抜かれました。せりふには辞書の語釈や難解な文法説明が出てきますが、それを早口で分かりやすく伝える技術に感嘆しました。後半、彼らの日本語は構造が壊れていきます。それでも内容が伝わる不思議さ。
物語は、独自の国語辞典を作ろうとする花見万太郎(筧利夫)と、助手の青年(諏訪珠理)の、ことばをめぐる冒険譚です。〈国語辞典は、正しい日本語とはなにかを示す道しるべ〉だと信じる花見は、行く先々で人々に論破され、自信を失っていきます。そして最後に、ひとつの考えにたどり着きます。
〈ことばというものは、よろしいなくとも美しく、また、正しくきちんとならぬというものでも喋らなくてはありません〉――変わった表現ですが、要は「ことばは美しくなくても、きちんとしていなくてもいい」と言うのです。
「美しいことば」「正しいことば」よりも大切なものは何か。それは、手持ちのことばで物事を一生懸命に考え、正直に気兼ねなく表明することだ。これが作品のメッセージだと受け取りました。
いや、驚きましたね。というのも、この主張は、私がつねづねあちこちで話したり書いたりしていることとほとんど同じと言ってもいいからです。
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