主演舞台「放浪記」で上演2017回という偉業を達成した女優の森光子(もりみつこ)(1920―2012)。新人時代からの親友である女優の赤木春恵(あかぎはるえ)さん(1924―2018)とは、晩年まで交流が続いた。
「あやちゃん……いつも呼んでいるからそう呼びます。(中略)早いもので、あやちゃんとは戦争中に兵隊さんの慰問で一緒になった頃から、70年来のお付き合いです。戦争のつらい経験を乗り越えてきたからこそ、ここまで頑張ってこられました。いつも2人で支え合ってきたわね。(後略)」
2011年8月、森光子さんから、私が引退を決めた舞台の千秋楽にいただいた手紙です。昔から“みっちゃん”“あやちゃん”と呼び合っていた私たちは女優同士ではなく、本名の村上美津(みつ)と小田章子(あやこ)としてのつきあいでした。
出会いは1940(昭和15)年の晩秋。慰問団の移動用トラックに黒のワンピースに黒のチュール付きトーク帽を被った森さんがいました。松竹の新人女優だった私にとって、4歳年上ですでに新興キネマで活躍していた彼女は大先輩。会釈をして名前を名乗るのがやっとでした。

深い交流が始まったのは、終戦後しばらくたってから。大阪の放送局でラジオの公開録音の仕事をしていた私の目に、消息不明だった森さんの姿が映ったのです。亡くなったという噂も流れていたので、はじめは幽霊かと思いましたが、本物だとわかったときはうれしかったですねぇ。
昭和30年前後は私も森さんも自宅のある京都と放送局や劇場がある大阪を行き来しながら、映画や舞台、ラジオの仕事をしていました。私たちは共演の仕事があると、時間を合わせて一緒に大阪へ向かいました。当時、NHKのラジオはレギュラーでもひとり1350円。今なら1万円ぐらいでしょうか。2人ともあまりお金はなかったけれど、帰りには四条河原町で電車を下りて、行きつけのとんかつ屋さんでワリカンでごはんを食べるのが楽しみでした。
菊田一夫に誘われ
森さんは私と違って新しいものにどんどん挑戦する人だったので、NHKでテレビドラマの実験放送が始まると、積極的にテレビの仕事をやるようになり、瞬く間に大阪で知られる存在になりました。
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source : 文藝春秋 2013年1月号

