主演舞台『放浪記』の公演が2000回を超え、女優初の国民栄誉賞も受賞した森光子(1920~2012)。代表作の一つ『雪まろげ』の主演を引き継いだ高畑淳子氏が思い出を語った。
高畑さん
森さんは、公演のときはいつも早くに劇場入りされます。そして、ご自身のメイクを済まされると、自分のお部屋でお茶会を準備してくださるのです。出演者はお部屋にお邪魔して、車座になって3、40分くらいたわいもないおしゃべりをするのですが、皆の話を嬉しそうに聞いてくださりましたね。「これはウォーミングアップなのよ、喉を温めたいからよ」と仰っていました。
お稽古中や公演中でも森さんは、「このお芝居を、ぜひ観に行きたいわ」とおっしゃる時があります。その時は森さんが共演者や関係者の分など、沢山の切符を手配してくれます。それこそ、まるまる席2列分とか、押さえてくださるんですよ。私もご一緒した時、せっかくだからと森さんのお隣りに座ろうとしたら、マネジャーさんに、「そこはちょっとご遠慮くださいね」と言われてしまいました。マネジャーさん曰く、「そこは景色を良くする席ですから、その隣の隣くらいにお座りください」と。劇場内で景色を良くするってどういうことって不思議に思いますよね。すると、その隣の席は共演している若くてイケメンの男性俳優が座る席だったのです。なるほど、いい景色ですよね(笑)。
森光子
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source : 文藝春秋 2022年1月号