同時代のエースたちだからこそ知る打者・長嶋の神髄
「私はデビューした1961年、35勝を挙げて310個の三振を奪いましたが、長嶋さんにはとにかくボコボコに打たれて、一つの三振も取れず『参りました』と頭を下げるだけでした。1990年代からは監督としても対戦しましたが、長嶋さんの凄みは、やはり打者としての存在感です。監督として長嶋さんより手腕の優れた人はいても、打者・長嶋茂雄のあの華やかさは、後にも先にも、誰も敵いません」(権藤博)
“ミスタープロ野球”長嶋茂雄が逝去して1年。読売ジャイアンツの監督として二度の日本一に輝いた一方、やはり不世出の野球人を国民的スターへ押し上げたのは、打席での記憶に残る雄姿だ。
入団2年で65勝を挙げた中日ドラゴンズの権藤博、広島東洋カープで完全試合一度を含む、三度のノーヒットノーランを達成した外木場義郎、“カミソリシュート”を武器に「長嶋キラー」として名を馳せた平松政次。不滅の男に真っ向勝負を挑んだエースたちが「打者・長嶋茂雄」を語り合った。
■ごんどうひろし 1938年生まれ。1961年中日入団。1年目から大車輪の連投で沢村賞などを獲得。「権藤、権藤、雨、権藤」は流行語に。対長嶋成績は被打率.362、7本塁打
■そとこばよしろう 1945年生まれ。1965年広島入団。1年目プロ初勝利がノーヒットノーラン。1975年沢村賞で広島初優勝に貢献。対長嶋成績は被打率.246、10本塁打
■ひらまつまさじ 1947年生まれ。1967年大洋入団。金田正一の65勝に次ぐ歴代2位の巨人戦51勝。1970年沢村賞。通算201勝。対長嶋成績は被打率.193、8本塁打
権藤 未だにミスターが亡くなった実感はない。あの人のことだから「まだどこかで寝てるんじゃないかな」って。そのうち「いや〜」なんて笑いながら巨人のキャンプに来るんじゃないかな。
外木場 長嶋さんがもういないと思うと、やはり寂しいですね。年齢は私が10歳下ですが、よく勝負しましたから、当時を思い出すと、寂しい気持ちになります。カープにも山本浩二と衣笠祥雄という素晴らしいバッターがいましたが、長嶋さんと王(貞治)さんのONは別格です。
平松 もう1年経つんですね。僕は現役時代、「長嶋キラー」などと呼ばれましたが、子どもの頃から大の巨人ファンで長嶋さんに憧れて育ちました。大洋に入ったのが1967年の8月で、初対戦は1カ月後の9月6日。もう、ネクストバッターズサークルで控えている姿を見ただけで感動しました。長嶋さんのところだけスポットライトが当たっているようでした。僕はもう地に足がつかなくて、何を投げたのかも、結果も全く覚えていません。監督としての長嶋さん、人間としての長嶋さんも、もちろん魅力的ですけど、打者・長嶋茂雄は、本当に圧倒的でしたから、あの凄さを若い人たちにも伝えていきたいですよね。
誰も打てない球を打つ
権藤 対戦したことのあるピッチャーも少なくなってきたからね。
私はプロ初登板が巨人戦。その日は、三番サードだったミスターが打席に入った時、プロ入り前からテレビで見ていた人をはじめて目の当たりにして、「これが天下の長嶋か……」と。それで2ボールから真っすぐをガツーンとやられ、レフトフェンスの一番上を直撃するツーベース。通算で100打席ほど対戦したけれど、あれが一番いい当たりだった。

外木場 みんなが打てないようなボールを打つのが長嶋さんでした。長嶋さんにしかできない打撃技術がありました。私が強く印象に残っているのが、1971年、後楽園球場で7回2アウトまでノーヒットに抑えていながら王さんにフォアボールを出して、次の長嶋さんに同点ホームランを浴びた試合です。高めのボール球を、いわゆる“大根切り”で上から叩きつけられ、弾丸ライナーでレフトスタンドまで飛ばされたんです。あんなホームランは、長嶋さんにしか打てませんよ。
平松 1970年に対巨人戦の連続無失点を33イニングで止められたのが、長嶋さんのホームランでした。同じようにとんでもない高めのボールを、大根切りで打たれたのですが、これには裏話があって、打たれた打席で当時、大洋の捕手だった大橋勲さんが、投球動作中に急に立ち上がって中腰になったんです。「えっ、大橋さん何やってんの?」と思いながら、絶対にバットが届かないような高めに軽いボールを投げたつもりだったんですが……見事にやられてしまいました。
これは想像ですが、1人のピッチャーに天下の巨人軍が抑え続けられていたら、ファンが許しません。おそらく、打席に入った長嶋さんが恐ろしいほどに集中していたのを見た大橋さんは「どんなボールを投げても打たれる」と思って、慌てて立ち上がったんだと思います。ところが、その1球を狙いすましたように打たれてしまった。
あとから聞くと、長嶋さんはいつも高めのボール球を大根切りで打つ練習をしていたそうです。1年目の開幕戦で金田正一さんから4打席連続三振を喫してから、「頭の上から降ってくる金田さんのカーブを打つためにはこれしかない」と。
権藤 キャンプ中のティーバッティングから「そこは誰でも打てる。もっと高く上げろ」とか「もっと近く!」とか、いつも“悪球打ち”の練習をしていたらしい。
平松 知っていたら、低めにワンバウンドのボールを投げていたのに……。未だに悔しいです(笑)。
権藤 あと、体勢を崩されても打つ練習など、後々になって聞いて、さすがだな、と。自分に対してまともに勝負に来るわけがない、と思ったからこその対策でしょう。ただ、練習して打てるなら誰でも打てるわけで、ミスターだからできたこと、としか説明できない。
外木場 ちなみに大根切りでホームランを打たれた翌年、私が三度目のノーヒットノーランを達成した試合で、巨人を相手に7回2アウトから王さんにフォアボールを与えて長嶋さんが打席に入るという、前の年とまったく同じシチュエーションを迎えたんです。この時は運よく抑えられましたが、前の年の大根切りが脳裏をよぎりました。
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