ブレイディみかこ×内田 樹「壊れゆく世界への抵抗」

内田 樹 思想家・武道家・神戸女学院理事長
ブレイディみかこ ライター・コラムニスト

NEW

ニュース 政治 国際

選挙で堂々と噓をつく、テクノ家畜化が進んでいる……

 ブレイディ 内田さんとはいつも雑誌「AERA」の巻頭エッセイが並びなので“共演”させて頂いていますが、一度ゆっくりお話ししたいと思っていました。

 内田 ありがとうございます。ブレイディさんの新著『それはどこでも起こり得る 壊れゆく世界への抵抗』(小社刊)、大変面白く読ませて頂きました。イギリスの現状をめぐる深みのあるレポートで、すぐれた政治・文化論にもなっていて、読んで本当に勉強になりました。

 ブレイディさんは一貫して「現場の人」なんですよね。イギリスの労働者たちやアンダークラスの人たちの息遣いが聞こえるくらい近い「地べたの視点」から、一気に上空俯瞰的な視点に移動して、社会の構造、資本主義の問題まで、焦点距離が自在に変わる。それはブレイディさんがイギリス社会の中の「アウトサイダー」である移民という立場を踏まえているからだと思います。わずかな思潮の変化で排除の対象になりかねない危うい存在だからこそ、イギリス社会の集団的な意識の変化にすごく敏感なんだと思います。

 ブレイディ ありがとうございます。日常的にイギリスのパブ文化の中で得ているものが大きい気がします。60代やもっと上の世代の人たちがパブでさかんに政治の話をするんですよ。いつも自分たちの苦しい生活がどう政治につながっているのかを語り合っているのですが、私は移民ですから、違う視点から見られるというのはあると思います。

ブレイディみかこ氏 ⒸShu Tomioka

 内田 なるほど、パブが日常的な政治談義の場なんですね(笑)。最近ホットな話題は何ですか?

 ブレイディ なんといっても、地方議会選挙(5月7日)でナイジェル・ファラージ率いる右派政党のリフォームUKが大躍進を果たしたことです。2018年に誕生し、今回は総議席5036のうち3割近くの議席を獲得し、一方で与党の労働党は大幅に議席を失いました。左派の緑の党も躍進して、もう労働党・保守党の二大政党制は終わり、マルチパーティ・デモクラシーの時代に突入したとしきりに言われています。

 この労働党の大敗を受けて、現党首のキア・スターマー首相おろしの気運が高まって、次期党首の最有力候補と言われるのがマンチェスターのアンディ・バーナム市長です。

 内田 マンチェスターの市長さんがですか?

 ブレイディ はい。彼はイギリスのラストベルトのような北部で、労働党の政治家にしては珍しく人気があるんです。コロナ禍の時など各都市の市長と連携し、政府に追加支援を出させたりして「キング・オブ・ザ・ノース(北部の王)」と言われるくらい人望がある。今年初めにライバルのスターマー首相に国政に出てくるのを阻止されましたが、今回の地方選の大敗を受けて党内外でバーナム待望論が盛り上がり、ついに下院の補欠選挙に出馬します。

 ここ数年、スターマー首相は“左派切り”を推し進めてきました。前党首のコービンを粛清し、映画監督のケン・ローチのような左派をどんどん追放してきたので、ピュアな左派の人たちは今の労働党が大嫌いです。現労働党なんて解体してしまったほうがいいという人たちまでいる。ただ、私は移民の当事者だから、そこには同意できない。排外主義で厳しい移民政策を掲げるリフォームUKに政権をとられたら、それこそ一家離散の危機ですから。

 内田 排外主義の高まりは世界的なトレンドですが、どこでも深刻さを増していますね。先日、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩さんとオンラインでお話ししたのですが、町山さんは日本への一時帰国すらままならないそうです。トランプ政権の移民排除政策で、過去にわずかでも法律違反があると再入国できないかも知れない。小切手の残高不足や交通違反程度の微罪でも入国拒否・強制送還のリスクがあるので、怖くて試せないそうです。

 日本でも「日本人ファースト」が声高に叫ばれ、入管法を厳格化し、永住許可の取り消し要件を拡大するなど移民排除の空気が強まっています。ブレイディさんの本にある「家産制国家」という分析はイギリス、アメリカ、日本で起きていることの核心を突いていると思いました。

初回登録は初月300円ですべての記事が読み放題

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2026年8月号

genre : ニュース 政治 国際