国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
2022年11月号の本欄で、「月がきれいですね漱石説」の怪しさについて述べました。夏目漱石が生徒に「日本人は直接的に表現しない。I love youは『月がきれいですね』と訳しなさい」と諭したという「逸話」があります。広く信じられている説ですが、どうも事実ではない、1970年代に現れた都市伝説と考えられる、というのが結論でした。
議論は一応決着したと言えます。ただ、この伝説には何か原型があるのではないか、という疑問が残ります。
SNSで「月がきれいですね漱石説」について触れたところ、いろいろな人から情報をもらいました。
まず、すでに60年代の本の中に似た話があると教えられ、驚きました。林屋辰三郎他『日本人の知恵』(中央公論社 1962年)によると、(日本の)恋人同士は I love you とは言わない、〈「いいお月さんですね」/そして二人でじっと空を見上げるだけで、意思は十分通じるのだ〉というのです。
さらに、50年代にも同様の話があるとのこと。宮内秀雄『英語のユーモア』(学生社 1958年)に〈男が女に向って/「いいお月さまですねえ」/といった場合、それは英語のI love youと同じく愛を告白しているのである〉。
どうやら似た文章がたくさんありそうだと思い、私も戦後の文献を調べてみました。すると、なんと英語の文献に行き着いてしまいました。
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source : 文藝春秋 2024年7月号