【じ】辞書アプリ提供には社会的責任がついて回る

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
ニュース メディア

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです

「辞書は紙を使うのがいいか、電子辞書がいいか」とよく聞かれます。さあ、どうでしょう。現在、紙の辞書が売れなくなったのはもちろん、電子辞書の専用機も市場が急速に縮小しています。

 私自身が毎日使うのは、スマートフォンに入れた辞書アプリです。これはとても役に立ちます。私が携わる『三省堂国語辞典』(三国〔さんこく〕)を含め、主だった辞書がスマホのアプリになっています。簡単な操作で検索できるので、お薦めするなら、まずは辞書アプリです。

 ところが、昨年は残念なことがありました。早い時期からスマホの辞書アプリを開発・提供していたB社が、アプリのサービス提供を終了してしまったのです。その結果、たとえば昔出た『三国』の旧版、第6版のアプリはアップデートされることがなくなりました。

 私がこれに気づいたのは遅く、今年になってからでした。スマホを機種変更したところ、以前から使っていた『三国』第6版のアプリが起動できなくなりました。改めてダウンロードすることもできません。私は著書などで、この第6版のアプリを高く評価していたのですが、買ってくださったユーザーに顔向けができないではありませんか。

 現在は『三国』の最新版、第8版のアプリが別の会社から出ていて、非常に便利に使えます。私も普段はこれを使っているので、第6版のアプリのことはいつしか忘れていました。

 ところが、SNSでは今も「購入済みの第6版のアプリが見られない。どうすればいいの?」といった投稿があります。愛着を持っていた辞書アプリが、ある日突然使えなくなってしまうのは理不尽としか言えません。

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source : 文藝春秋 2024年8月号

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