国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
SNSでは、他人のことばを批判する発言が毎日のように目に触れます。最近も、政治的に対立する相手の誤字を取り上げて嘲弄する発言を読みました。そこには「いいね」が数千もついていました。罵倒のための罵倒なので、私は割って入る気になれませんでした。
取り上げられていたのは「廃止」の「廃」の字です。常用漢字では「まだれ(广)に発」ですが、問題の字は「やまいだれ(疒)に発」でした。たしかに、老廃物が溜まると病気になるかもしれないし、気持ちは分かります。
実は、私も高校の頃から「廃」をやまいだれで書いていました。「廃人」の「廃」をそう書いた文章が残っています。何年か前にも「廃止」の「廃」をやまいだれで書いた自筆の画像をSNSに投稿したところ、指摘を受けました。
自己弁護すると、「廃人」(あまりいいことばではありませんが)は、昔は「癈人」とも書きました。「癈」は〈病気が久しく治らないさま〉〈廃棄する〉(『全訳 漢辞海』第4版)などの意味で、「廃」と通じます。「癈」の中にある「發」は「発」の旧字体ですから、まあ「やまいだれに発」と書くのと同じです。
一方、「廃止」(旧字体では「廢止」)を「癈止」とやまいだれで書く例は、昔からごく少数です。だから、「『廃止』もどんどんやまいだれで書きましょう」とまでは主張しません。ただ、字形も意味も似ていることだし、それほど非難に値するとも思いません。
私は、漢字を書くときには、ある程度厳密なルールに従うのはやむをえないと考えています。あやふやに書いた字は、そもそも何と書いてあるのか分からず、相手に伝わらないからです。
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