【ぶ】文化庁の新サイトは「正誤の押しつけ」の危険

日本語探偵

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
ニュース メディア

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです

 文化庁が2024年度の概算要求の中で「言葉の疑問解決室」(仮称)というウェブサイトを制作する計画を示し、実に1億円に上る要求額を掲げています。そうとうな意気込みです。

「読売新聞オンライン」(12月4日)によれば、たとえば「破天荒」を検索すると、こんな解説が出てきます。〈〇 誰も成しえなかったことをする/× 豪快で大胆な様子〉。ことばの「正誤」がすぐに分かるというイメージです。

 けっこうではないか、と思われるかもしれません。でも、ちょっと待ってください。「破天荒」を前者の意味で使う人は、現在では2割ちょっとしかいません。6割以上は後者の意味で使います(文化庁2020年度調査)。現代日本語では「豪快で大胆な様子」の意味のほうが主流と考えられます。

 ことばの「正誤」は簡単に決められるものではなく、また、あることばに「誤り」とレッテルを貼ると、影響は重大です。かりに「破天荒」の「豪快で大胆」の意味を「誤り」とするなら、約6割の人が誤っていることになりますが、今さら古風な意味では使いにくい。多くの人は、現在主流の意味を「本当は誤りらしいけど……」と罪悪感を持ちながら使うか、そもそも「破天荒」の使用を避けることになるでしょう。「正誤の押しつけ」は誰も幸せにしません。

 もっとも、文化庁はことばの調査などの際、「正誤」という表現は慎重に避けています。〈辞書等で主に本来の意味とされてきたもの〉〈そうでないもの〉などと言っています。でも、受け取る側はそれを「正誤」に読みかえて解釈します。結果として、「文化庁がAを正しい、Bを誤りとしている」という形で情報が広まる危険があります。

 実際に『文化庁月報』(2011年6月号)では〈「破天荒」は、「豪快で大胆」?〉のタイトルで、〈本来の意味は違うのです〉と解説を加えています。現在主流の意味は不適切だという文意が感じられ、公平でない印象を受けます。新しいサイトにもこうした解説が書かれるなら、私は明確に反対します。

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source : 文藝春秋 2024年2月号

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