国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
ジャニーズ事務所の創業者(故人)による大規模な性加害問題が明らかになり、事務所は9月7日に記者会見を開いて事実を認めました。社長交代も発表されました。ただ、「ジャニーズ事務所」の社名は変えないという新社長の発言に、記者たちから質問が相次ぎました。
私はSNSで、社名は変えたほうがいいと思う、と投稿しました。また、この社名を支持するかどうかの決定権は、結局(社会の)人々にある、という趣旨のことも述べました。
これに対し、社名は変えなくていいというコメントも寄せられました。「社名変更で不祥事を忘れさせようとした例もある」「戒めとして現社名を背負っていくべきだ」。私は、これらの意見には賛成できませんでした。
会見では、質問者から「被害を与えた人物の名を冠する社名は常識外れ」「被害者は社名を見聞きするだけでフラッシュバックの引き金になる」という趣旨の指摘がありました。社名問題の核心は、まさしく、社名に創業者本人の名が使われているところです。質問では〈ヒトラー株式会社〔と同様だ〕〉という比喩が使われました。過激ではありますが、本質を突いています。
私が社名を変えたほうがいいと思うのは、元の社名のままで事務所が立ち直り、名誉が回復されれば、同時に創業者の名誉も回復されてしまうからです。
新社長は会見で〈〔社名を〕どこまで変更することがいいのか〉と疑問を呈し、〈今後はそういうイメージを払拭できるほど、みんなが一丸となって頑張っていくべきなのかなという判断を今はしています〉と述べました。つまり、傷ついた社名のイメージを、頑張って回復していこう、ということです。
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source : 文藝春秋 2023年11月号