国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
毎年6月に閣議決定される「骨太の方針」。政府の経済・財政政策の基本方針の通称ですが、変わったネーミングではあります。「政府自ら『骨太』と言っちゃうことに疑問を感じてきました」とは、本欄の担当編集者の感想です。
これは、小泉純一郎内閣で経済財政相だった竹中平蔵氏のセンスで名づけたんだろう。私は何となくそう思っていました。2001年4月の組閣の頃から「骨太の方針」が喧伝され、小泉ブームを表す他の語とともに、その年の「新語・流行語大賞」を受賞しました。
実際は誰が言い出したのか。ネットで検索すると、日経新聞のサイトの「きょうのことばセレクション」(19年7月1日)が出てきました。〈2001年に〔経済財政〕諮問会議ができた当時の宮沢喜一財務相が「予算は財務省に任せて骨太の議論をしていただければ」という趣旨の発言をしたのがきっかけだ〉。すると、宮沢氏だったのか。
これだけでは不安なので、当時の新聞記事を調べてみます。『東京新聞』のコラム「筆洗」(01年6月6日)に諮問会議の議事録が引用されていました。宮沢氏は〈『骨太』な問題を集約し提起していただき〉と述べたとのこと。さっきの資料と文言が違うな……。
宮沢氏の名前などを手掛かりに、さらに調べていきます。最終的に、内閣府の小冊子『Economic & Social Research』(22年冬号)に前川守氏(元内閣府審議官)が寄稿した文章にたどり着きました。どうやら、本当の命名者は、竹中氏でも宮沢氏でもなさそうです。
小泉首相の前の森喜朗首相は、01年1月の諮問会議で〈骨太の政策を明確にする〉と発言しました。「骨太」の語を最初に用いたのは、実は森氏だった。
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source : 文藝春秋 2023年8月号