国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
今年5月20日から約1か月間、東京駅コンコースで「空也上人大集合展」(JR東海主催)が開かれました。「そうだ 京都、行こう。」でおなじみの京都観光キャンペーンの一環です。六波羅蜜寺の重要文化財・空也上人立像のレプリカも展示され、にぎわっていました。
イベントの中心はこのレプリカではなく、全部で47体の空也上人の等身大パネルです。コンコース狭しと並んだ上人の写真パネルのそれぞれに、「そうだ 京都、行こう。」を各都道府県のことばに訳したせりふが添えてありました。
たとえば、北海道の空也上人は〈そうだ 京都、行くべ〉と言っています。青森の上人は〈んだ 京都さ、えぐ〉。私の郷里・香川の上人は〈そうや 京都、行こう〉。この調子で、1体ごとに別の都道府県の方言が添えられています。壮観というか、異様というか。
全国のJR職員から、方言の聞き取り調査をしたのだろうか。私はひたすら感心しながら、47体すべてのパネルを写真に収めました。それだけではもったいないので、この47の方言を一覧にしてツイッターで紹介しました。けっこう多くの人が面白がってくれました。
ところが、地元の人からは異論も出ました。たとえば、青森など東北の人によると、「んだ」は相手に同意することばで、「そうだ、行こう!」と思いついたときには使わないそうです。〈んだ 京都さ、えぐ〉は間違いらしい。
鹿児島の上人は〈じゃっど 京都、行っど〉と言っているのですが、この「じゃっど」も同意の意味だそうです。思いつきなら「じゃっ」だと言う人も。
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source : 文藝春秋 2023年9月号