【さ】『三省堂国語辞典』の「削除項目」が本になった

日本語探偵

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
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国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです

 変わった本が刊行されました。『三省堂国語辞典から 消えたことば辞典』(三省堂)。タイトルどおり、現在の『三省堂国語辞典』(三国〔さんこく〕)にはなく、しかし過去の版には載っていた、懐かしさを誘う項目を集めた本です。

 編者は見坊行徳(けんぼうゆきのり)さんと三省堂編修所。辞書に関心のある人は、見坊さんの名前にピンと来るでしょう。戦後を代表する国語辞典編纂者・見坊豪紀(ひでとし)の孫です。校閲者で、辞書マニアでもあり、辞書について多く発言しています。

 本書をぱらぱらとめくると、「昔の『三国』にはこんなことばが載っていたのか」と新鮮な驚きを得ます。たとえば、「IBM」(要はコンピューターのこと)、「軍足」(軍人のはく靴下)、「即実」(事実に即すること)、「闘球盤」(球を弾いて穴に入れるゲーム盤)、「ナス」(ボーナスの略)など、全部で1000項目。労作と言うべきです。

 それぞれの項目の文章は、過去に辞書に掲載されていた時の紙面をそのまま使用しています。初期の版に掲載されていた項目は活版印刷、わりあい最近まで掲載されていた項目はオフセット印刷で、両者の対比が美しい。それらの項目のすべてに、見坊さんたちによる分かりやすい脚注がついています。

 この本は、言わば読者の声によって実現しました。2022年に『三国』の第8版が刊行された時、「最新版で削除された項目」がメディアで紹介されました。その中には「MD」「コギャル」「着メロ」など、まだ記憶している人の多いことばも含まれていました。「削除すべきではない」という批判もあり、それに対する弁明をこの欄で述べました(22年2月号)。批判の一方で、「これまでの削除項目だけをまとめて一冊の本にしてほしい」という要望も多かったのです。

 私たちの編纂する『三国』は、現代語と現代用法を重視する辞書です。検索される頻度が減っていくと見なした古いことばは、やむをえず割愛します。その項目を惜しみ、書籍化を望む声があることはありがたいことでした。ただ、削除項目だけの本というのは地味で面白くないだろうと、私は思っていました。

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source : 文藝春秋 2023年6月号

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