国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
国立国会図書館が公開しているデジタル化資料の検索機能が充実してきました。今では、著作権保護期間を満了した図書の全文検索ができます。ことばの研究にも絶大な威力を発揮します。
たとえば、議会や役所で多用される「善処」という用語。やるかやらないかを曖昧にする場合にも使われます。この用語がいつ頃から広まったのか、デジタル化資料から読み取れます。
「善処」を広めた首相がいます。一体誰か、イメージしてみてください。佐藤栄作でも池田勇人でもありません(2人とも首相としての使用回数は多い)。実は、大正時代の加藤高明です。
1924(大正13)年のこと、加藤首相は貴族院の改革に関して、帝国議会で〈本問題に善処せんことを期する次第であります〉と述べました。これが「何を意味するか分からない」「弱腰」と受け止められたといいます。
「善処」ということば自体は明治時代以前からあり、漢文にも使われています。ただ、この加藤発言によって「善処」は一種の流行語になりました。国会図書館のデジタル化資料では、加藤発言の頃から「善処」の出現頻度が急に伸びています。「善処」を広めたのは加藤首相、と特定していいでしょう。
「善処」は戦後も使われます。先に触れた佐藤首相も愛用者でした。日米繊維交渉の真っ最中の69年、佐藤はニクソン大統領との会談で「繊維問題は年内か来年早々にも善処したい」と述べました。曖昧にかわしたつもりが、積極的な意味に英訳され、アメリカの強硬姿勢につながったといいます。
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source : 文藝春秋 2023年4月号