国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
さる講演会で「日本語と日本文化」という題で話をしました。この題は主催者の希望によるのですが、ちょっとスケールが大きいですね。司馬遼太郎が話すならともかく。でも、せっかくのご依頼なので、文化史的な状況の変化とともに日本語の姿が変わってきた様子を話しました。もっともらしいでしょう。
短い時間であれもこれも話すわけにはいかないので、なかでも文体の移り変わりに絞って説明しました。
日本語の文体には、歴史上、大きく分けて5つの姿があった。これが話の骨子です。まことに大ざっぱであり、文体史の専門家には怒られそうですが、分かりやすさを優先したのです。
まず、中国文化の影響下にあった奈良時代までは漢文体の時代でした。仮名文字もなく、思想の表現は漢文に頼るしかない。〈天地初発之時(あめつちはじめてあらはれしときに)……〉(「古事記」)などと書いていました。
国風文化が広まった平安時代には和文体が一般化しました。「古今和歌集」の仮名序では〈やまとうたは、ひとのこゝろをたねとして……〉と、仮名文字で大和ことばを書き記し、堂々たる和歌論を展開しています。
武家文化が育った鎌倉時代以降は、和漢混淆(こんこう)文体が広く用いられるようになります。漢文体と和文体のミックスですね。〈祇園精舎(ぎをんしやうじや)の鐘の声……〉で始まる「平家物語」がその代表例です。
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source : 文藝春秋 2023年3月号