国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
言語学などを専門とする「くろしお出版」から、椎名美智(しいなみち)・滝浦真人(たきうらまさと)編『「させていただく」大研究』という本が出ました。しばしば目の敵にされる「させていただく」という表現について、日本語学の研究者たちが、さまざまな視点から論じ尽くした本です。
研究書なのですが、漫才用語の「やめさしてもらうわ」の分析あり、「食べログ」の投稿に出てくる「させていただきました」の調査ありで、内容は贅沢(ぜいたく)、バラエティーに富みます。ところどころ難しい用語もあるけれど、それはネットを検索すれば分かります。日本語に関心の深い読者に、ぜひ生きのいい言語研究の成果を味わっていただきたい。
と、本書を推薦しながら気が引けるのですが、実は私も論考を載せてもらっています。「させていただく」の研究の経験もないのに僭越(せんえつ)なことです。以前(2019年1月号)、本欄で「させていただく」を取り上げたのが編者の目に留まったことがきっかけでした。
私の論は、「させていただく」は日本語の敬語体系の欠陥を補っている、というものです。たとえば、「会場に案内する」をへりくだって(謙譲語で)言うと「会場にご案内する」となります。一方、「会場を変更する」をへりくだって「会場をご変更する」と言うとおかしい。そこで、「会場を変更させていただく」と「させていただく」を使うと、うまく謙譲の意味が表せるのです。
これだけでは簡単すぎるので、戦後文学で「させていただく」が使われた例を調べたりして、客観的なデータを示すことに努めました。私が述べたかったことは、どうにか形にしたつもりです。
ところが、本書に掲載された他の論文を読めば読むほど、自分自身の勉強不足を痛感することになりました。
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source : 文藝春秋 2023年2月号