国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
最近、何度かテレビ番組に呼ばれて話をしました。そのひとつの収録時に、司会の人から「あなたの好きなことばは何ですか」と質問されました。「紙に書いてください」と言うのです。
他の出演者は「儚(はかな)い」「死ぬ気(で頑張る)」「おもしろい」などを挙げました。私はというと、困ったあげく、苦しまぎれに「ぜんぶ」と書きました。「すべてのことば」という意味です。
すぐに司会者から「反則ですよ」とダメ出しがありました。好きな人を尋ねられて、どの人にも長所があると答えるのと同じ建前論だというのです。「本当に好きなことばを答えてください」
さあ、今度こそ切羽詰まった。窮余の一策で「あ」と書いてみました。「何ですそれ?」「感動詞の『あ』です。『あ』はさまざまな驚きや感動を伝える。喜びの『あ』、悲しみの『あ』。すべての元となることばではないでしょうか」
「ああ……」と、司会者はうめきました。オチにはならなかったようです。結局、この部分はカットされました。
国語辞典を作る私にとって、「好きなことばは何か」という質問は本当に困ります。建前論でなく、心底から「どのことばも素晴らしい」と思うからです。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2023年1月号