【こ】「コタツ記事」に協力 これからは控えることに

日本語探偵

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
ニュース メディア

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです

「コタツ記事」といわれる安直な記事がインターネット上に増えてきました。記者がまるで取材をせず、ネット情報などをつなぎ合わせて作る記事。こたつに入ったまま書けるのでこう呼ばれます。

 この呼称は、2010年代後半から散見されるようになりました。主要全国紙・地方紙で取り上げられるようになったのはざっと20年以降です。23年上半期の芥川賞を受賞した市川沙央さんの「ハンチバック」は、主人公の女性が書いたコタツ記事から始まります。文学でもこの呼称を捕捉しています。

 一部のいい加減なウェブメディアだけの記事かと思っていたら、スポーツ紙や芸能紙のウェブ版でもお目にかかります。「芸能人がSNSでこのような発言をした」「それに対してネット上ではこんな反応があった」などという記事がそれです。ニュース性があるのかどうか不審でしたが、要するにページビューが稼げればいいらしいんですね。

 まともなメディアが書く記事ではない、と冷ややかに見ていました。ところが、なんと私自身がコタツ記事の生産に協力していたことに気づきました。

 ネットメディアなどから「最近話題の⃝⃝ということばを解説してほしい」などと頼まれることがあります。私の分かる範囲で、極力調べて答えます。ところが、出来上がった記事が明らかにコタツ記事だったりするのです。

 たとえば、ネットスラングで笑いを表す「草」について解説を頼まれたとします(架空の例です)。このことばはいつ頃広まったか、どんなふうに使われるか、笑いを表すスラングの歴史は、などの質問について、間違いがないよう、入念に推敲して原稿を作成します。

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source : 文藝春秋 2023年12月号

genre : ニュース メディア