国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
ネットニュースで「全然」の用法に関する記事を読みました(「ラジトピ」4月8日配信・「全然大丈夫」「全然良い」は間違いか?)。「全然」の下に肯定表現を続けてもいいのかという、おなじみの「誤用」談義です。この議論の前提には「全然」の下は「〜ない」と否定が来るべきだという考え方があります。
「全然大丈夫」に違和感があるかどうかは人それぞれで、私は「使うべきでない」とも「ぜひ使うべきだ」とも言うつもりはありません。それは、使い手自身が場面に応じて判断することです。
ただ、記事には困惑しました。文化庁国語課の人に話を聞き、それを基に構成しているのですが、「全然」に関する研究の歴史を無視しているし、論理のつじつまも合っていません。文化庁の人が話す内容とは思えないので、記者のまとめ方が悪いのかもしれません。
たとえば、〈かつて、一部の文豪たちが否定的表現を伴わず“全然”を用いた作品も存在します〉という説明。これを読むと、「全然+肯定」は昔もあったが、それは一部にすぎなかったという印象を受けます。主流は「全然+否定」だったのだろうと受け取りますよね。
でも、事実は違います。「全然」に関しては、何人もの研究者が戦前にさかのぼって調べています。その結果、「全然」の後には、本来、肯定・否定のどちらも続いたことが分かっています。
〈僕等のストライキを起(おこ)したのは、全然善(ぜんぜんよ)いと信じたからだ〉(繁野天来「青葉若葉」1903年)
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2024年6月号