日本人を魅了するフェルメール

宮下 規久朗 神戸大学大学院人文学研究科教授

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 この夏、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》が大阪に来日する。今やモナリザに次いで世界でもっとも有名な絵のひとつとされ、世界中の人々を魅了している。今回が4度目の来日であり、フェルメール作品で最多である。一方、同じマウリッツハイス美術館にあるフェルメールの最高傑作《デルフト眺望》が来日したことがないのはきわめて残念である(日本以外には何度か貸し出している)。

 以前は《青いターバンの少女》と呼ばれており、1984年の「マウリッツハイス王立美術館展」で東京で展示されたときはそのタイトルであった。このとき本作は話題にも上らず、その前で立ち止まる人も少なかった。この画家の名は一般にはまだほとんど知られていなかったのである。

 ところが、1999年にトレイシー・シュヴァリエによる小説が刊行され、それを原作にした2003年のピーター・ウェーバー監督の映画「真珠の耳飾りの少女」がヒットする。

宮下規久朗氏(本人提供)

 2000年にフェルメー展で大阪に来日したときは《青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)》と両方のタイトルが併記されており、2012年の「マウリッツハイス美術館展」で東京と神戸で展示されたときは、単に《真珠の耳飾りの少女》になっていた。そして、本作の前では観客が長蛇の列をなしたのである。

 本作にはもともとタイトルは付いていなかったし、1881年以前の記録はほとんど存在しないため、それを変更することは問題ないが、《真珠の耳飾りの少女》になってから一気に知名度が上がったのはまちがいない。

 フェルメールの人気は世界的なものだが、とくに日本では人気が高いように思われる。オランダ最大の巨匠レンブラントも日本ではこれほどの人気はない。

 そもそも日本人は印象派以前のいわゆるオールドマスターへの関心が希薄で、国内の美術館にも作品はきわめて少ない。近代以前の西洋の美術はキリスト教を主題にしたものなど、意味内容を読み取らねばならないものが多い。これに対し、印象派の作品は見た光景をそのまま描いたように見え、きわめて平易である。欧米とちがって学校教育に美術史がなく、美術の見方になじんでいない日本人の大半は、主題や意味のない、見ればわかる美術にしか興味を示さない傾向にあるのだ。

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source : 文藝春秋 2026年9月号

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