映画「男はつらいよ」で国民的な人気を博した名優、渥美清(あつみきよし)(1928―1996)。互いに無名だった時代から知る脚本家の早坂暁(はやさかあきら)氏(1929―2017)が、40年にもおよぶ交遊を語る。
渥美ちゃんが亡くなってしばらくして、ある人から「病床の、最後の手帳が出てきた」と連絡が入りました。その手帳の最後のページにこう書いてあった。
「家族のみんなで神津島に行こう。ギョウさんもいっしょに」
伊豆七島の神津島は白砂の海岸のそばに温泉が湧いていて、とってもいい島なのです。これには参りました。というのも「なんであの時会っておかなかったのか」と、悔やんでいたさなかのことでしたから。

1996(平成8)年に渥美ちゃんが最後に入院する直前、訪ねてきてくれたのを僕は追い返してしまっていたのです。ちょうど編集者が原稿の上がりを今か今かと待っていたものですから、「2、3時間後ではだめ?」と聞いたのですが、「じゃあ、また今度」と渥美ちゃんは帰って行った。結局それきりとなってしまいました。サヨナラを言いに来てくれたのだと思います。
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source : 文藝春秋 2013年1月号

