我が家の本棚、と言うには小さすぎる棚には書籍と呼べるものは50冊もない。思い入れのある本はあるものの、人生を変えた作品などあるだろうかと訝りながら数冊手にとってみると、ある程度影響を受けたであろう人物の自伝や評伝、私小説がいくつかあった。
『完本マイルス・デイビス自叙伝』(マイルス・デイビス、クインシー・トループ著、中山康樹訳、JICC出版局)
蔵書の中では辞書に次いで分厚い本である。中学3年の頃にマイルス・デイビスの音楽を初めて聴いた時はちんぷんかんぷんだったが、聴く度に感動と発見があり『帝王』と呼ばれるに相応しい音楽家である。
生前は批判される事の多かった後期の彼の偉業は、ヒップホップやテクノなど、現代の様々な音楽に影響を与え続けている。1つの物にしがみつかず、新しいものへの好奇心とそれを自分の物にする貪欲さ、止まらず進み続ける精神など若い頃には大きく影響を受け、それは今もなお僕の奥の方で息づいている。
『水木しげるのカランコロン』(作品社)
これも同じく分厚い1冊。漫画の描き方から回顧録、対談、思想、風刺画、そして糞の話。糞の話で物を語れる稀有な作家であり、この分厚い本がまるまる糞の話のような印象すらあるが、それを下品とは感じさせない所も水木しげる大先生の凄さである。大先生の屈託がなく洒脱に富んだ文章には大いに影響をうけ、文章表現のひとつの手本としている。ちなみに大先生と書いて“おおせんせい”と読む。
『鹽壺の匙』(車谷長吉著、新潮文庫)
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source : 文藝春秋 2023年5月号