「小松さん、能年玲奈を名乗れなくなったことなんて、何でもないです。だって、新しく生まれたのんは自由で、やりたいことに飛び込んでいけるんですよ!」
2017年、月刊文藝春秋の取材の席で、のんはそう言った。声は弾み、黒目がちな瞳が見開かれ、輝いている。
「能年玲奈」から「のん」になった当時、芸能マスコミは騒然としていた。契約により名前を名乗れなくなったことや、根も葉もない噂が飛び交い、のんを支える人々までが誹謗中傷にさらされていたことも信じ難かったが、NHKの朝ドラ「あまちゃん」から空白のなかったスケジュールが白紙になっていったことは、表現者としての「死」を意味すると私には思え、心が痛んだ。
ところが、取材で会うのんは、いつも楽しそうだった。ギターを奏で、絵を描き、YouTubeで映画を撮り、次々と新しい表現へ飛び込んでいく。その才能は、まるで火花を散らすように、眩しく鮮やかだった。
「本名を奪われるなんて、あまりにも酷い」と憤る私を、晴れやかに諭したのが、冒頭の言葉である。あの表情と声を、私は今も忘れられない。
悲しみや落胆とは無縁のその人を前に、私は「のんの評伝を書きたい」と思った。その願いが叶い、出会いから9年を経て、『のんフィクション ヒーロー誕生』は刊行されたのである。

本書には、世間が知らないドラマを数多く綴っている。
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