坂根正弘 下請けを犠牲にせず共に

杉本 りうこ ジャーナリスト

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ライフ 経済 企業

 建設機械大手のコマツの坂根正弘元社長(1941〜2026)が8月、85歳で死去した。長時間取材したことのある杉本りうこ氏が、下請け会社との共存共栄を模索していた経営者が秘めていた志を綴る。

下請けとの共存共栄を模索しつづけた坂根正弘氏 Ⓒ時事通信社

 道徳があってこそ商いは永続するという「道徳経済合一説」を唱えたのは、日本資本主義の父・渋沢栄一だった。21世紀の日本において、渋沢翁さながらに倫理と算盤を調和させた経営者といえば、コマツの坂根正弘氏ではないだろうか。

 東日本大震災直後の2011年夏、会長だった坂根氏に長時間取材する機会があった。その中で「協力会社(下請け)が協力してくれないからコマツに追いつけない」という他社の言い分をぶつけると、坂根氏は身を乗り出して答えた。

「協力会社というのは、苦しい時をともに乗り切って初めて信頼してくれる。そしていざという時に、一緒に攻めてくれるのです。その会社は、苦しい時に協力会社とどう付き合っていたのでしょうかね」

 コマツには「みどり会」という下請け企業を束ねた組織がある。建機業界では鉄の結束で知られるが、その真価が発揮されたのは08年のリーマン・ショックだった。需要の急激な落ち込みでコマツ自身が経営危機だというのに、坂根氏は野路國夫社長(当時)と「みどり会企業は一社たりとも潰さない」と決めた。

 自社工場に閑古鳥が鳴く中、一部の製造工程をあえて下請けに移管し、食い扶持を与えた。貸し剥がしにあいそうな企業には銀行まで役員を同行させ、「コマツがついていますから融資継続を」と説得した。

 多くの大企業が自社の生き残りのために下請けを切り捨てていた時、コマツは雛を抱く親鳥のように彼らを守った。結果としてみどり会企業は一社も欠けず存続し、3年後の被災地復興時の建機需要には全力で増産に応じ、コマツを押し上げた。

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source : 文藝春秋 2026年11月号

genre : ライフ 経済 企業