犬養毅や吉田茂など、時の権力者を陰で支えた古島一雄(1865〜1952)。『狼の義 新 犬養木堂伝』共著者で、古島の足跡を追ったノンフィクション作家の堀川惠子氏が、その半生を描く。

政治史から昭和百年を眺めれば、政党政治は長い戦争を挟み、崩壊から再生のV字を描く。その一部始終に立ち会い、裏方で時代を動かしたひとりが古島一雄だ。黒子に徹した人生ゆえ、初耳という読者も多いだろう。戦前は犬養毅の懐刀にして、戦後は吉田茂の指南役。元新聞記者で、後に衆議院議員。大宅壮一は古島のことを「別格の超オールド・リベラリスト」と呼び、現実政治への影響力において尾崎行雄を凌ぐ傑物と書いた。
政治記者・古島の風体は「蓬頭垢面(ほうとうこうめん)」。洗いざらしの袴に下駄姿で、藩閥の利権を暴くスクープ記事を連発。新聞「日本」の編集長時代には正岡子規の兄貴分としてその活動を支えた。「財閥王」という妙なあだ名がついたのは、貧乏底なしだったから。
政界通の古島が、犬養毅に傾倒するようになったエピソードがある。とある日、古島が犬養邸を訪ねると、家中の家具に差し押さえの赤紙がベタベタ貼られていた。呆れて理由を問うと、犬養は胸をはった。「大隈(重信)から金を借りたら一生、大隈の奴隷だ。高利貸しは向こうから頭を下げてやってくる、気安いものだ」。
国会開設以来、犬養は民党の旗手として藩閥と戦い、政党政治の実現を目指した。好々爺然とした晩年の写真が有名だが、その実正邪の念は厳しく、生半可な論客など一瞬で切り捨ててしまう。妥協知らずの頑固者が、なぜか古島の助言にだけは耳を傾けた。古島が参謀に収まるや、世間は「刀剣の鑑定に精(くわ)しき犬養氏は、この剃刀(古島)をも懐中に納めたり」と評した。
昨年は男子普通選挙(普選)から百年。犬養にとって普選は一丁目一番地で、古島はフィクサーとして、その実現に奔走した。普選反対の超然内閣に分裂工作を仕掛け、反目しあう野党党首を根気強く仲介、巧妙な選挙戦を展開する。そうして誕生した護憲三派内閣は難産の末に普選を実現、二大政党政治が幕を開けた。
念願の普選も、しかし蓋を開けてみれば選挙は金権まみれ。折しも昭和恐慌で国民生活は格差が拡大し、ポピュリズムが席巻する。世論に迎合すれば政党は太り、筋を通せば野党暮らし。真の議会政治の難しさを古島は嘆いた。
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