news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは漫画家の柴門ふみさんです。「恋愛の神様」が語る夫婦のカタチ、女のリアル。
「恋愛の神様」が語る夫婦のカタチ、女のリアル
有働 「女性セブン」で連載中の『恋する母たち』を毎週読ませていただいているんですが、ベッドシーンがとてもリアルですね。男女の営みの時、女性の足の指がキュッと曲がっているとか……。最初からこんな話でなんでございますが(笑)。
柴門 浮世絵の春画はみんな、そういう時キュッとなっています。誇張も多いですが、足の指に関しては春画が一番リアルなんですよ。
柴門氏
有働 あれは春画を参考にされたんですか。恋愛を続けていらっしゃるからこそのリアルかと(笑)。
柴門 自分はしないですよ。取材したり、素敵な俳優さんを見て妄想したりして、それを商売に生かしています。それから、ものすごく映画を見てます。濡れ場を中心に(笑)。
有働 それは和洋問わず(笑)?
柴門 和はちょっと身近で生々しい感じがするので、洋画が多いかな。好きな映画に『ダメージ』という作品があるんですが、ルイ・マル監督がバレエを参考に官能的なシーンを描いているんです。だから、エロティックなポージングにも美しさがある。実際の男女の営みは無我夢中だと思いますけど、作品として美に昇華されていなければ、読み手は客観的に耐えられないですよね。特に女性は美しいものが好きですし、その点はすごく意識しています。
「恋」は母親をも変える
有働 『恋する母たち』は、私立の名門高校・麻蔵学園に子どもを通わせる3人の母親が主人公です。夫が失踪してシングルマザーになった石渡杏、弁護士の夫を持つセレブ妻の蒲原まり、バリバリのキャリアウーマンの林優子。境遇の異なる3人が、子育てや夫婦生活で忘れかけていた「ときめき」を思い出し、妻として、母として、そして女性として葛藤しながら生きる物語です。連載開始から4年目ですが、3人の恋がどんな結末を迎えるのか、読者をぐいぐい惹きつけて離しません。『東京ラブストーリー』や『あすなろ白書』などを描き、「恋愛の神様」と言われる柴門さんが、なぜ今回は「母親」をテーマにされたんですか。
「恋する母親たち」より。累計16万部のヒット。
柴門 私も2人の子がいて、学校行事などでたくさんの母親と知り合ったのですが、若い頃はどんなに恋多き女でも、子どもを産んだ途端に子育てに没頭し、恋愛に見向きもしなくなる人が何人もいたんです。男性は子どもが生まれたからといってそんなには変わらない。どうして女性はこんなに変わるんだろうと思ったのがきっかけです。
有働 でも、母性全開だった母親たちも、ふとしたきっかけで恋に落ちてしまう……。
柴門 そうなんですよ。子育てで女を忘れたのかと思っていたら、10年くらいのブランクがあっても男性から声をかけられると恋心が再燃してしまうんです。しかも、男を軽くあしらっていた20代じゃなくて、初恋をした中学生くらいに舞い上がっちゃう。それが面白くて、いつか描きたいと思っていました。
有働 過去の作品の多くは青年漫画誌での連載でした。女性週刊誌での連載は初めてですよね。
柴門 はい。青年誌では男性が興奮する絵がいいと思うのですが、今回は女性がターゲットなので、女性に不快感を与えない、官能的で美しいものを目指しました。でも、どのぐらい読者に受け入れられるかは全く自信がなくて、祈るような気持ちで描き始めました。
有働 主婦層からクレームがあったりもするんですか。
柴門 蓋を開けてみたら無いですね。子育ては夫任せで働く優子の不倫について主婦モニターに聞きましたが、「あの場合はしょうがないわよ」って言っていました(笑)。週刊誌で有名人の不倫が報じられるたびに叩かれますけれど、実際のところは当事者になってみなければ分からない。それぞれの事情を描いたら、「しょうがない」という気持ちになるんじゃないか? ということを表現したかったので、その狙いはある程度成功したかなと思います。
有働 なるほど。それぞれの事情か。もし有名人が不倫で撮られても、柴門先生にその背景を描いてもらえば、また違う受け止められ方をするかもしれませんね(笑)。そもそもの話ですが、柴門さんは、結婚している男女が恋をするのはアリ、ですか?
柴門 良い悪いじゃなくて、恋はしょうがないんですよね。人間、誰しもが生まれ落ちた瞬間から「エロスの塊」みたいなものがスマホのデフォルトのアプリみたいに入っていると思うんです。それを起動しないと一生恋をしないで終わる。でも、起動したら誰でも恋に落ちる。一種の生命力というか、生命の根源のようなものなんじゃないでしょうか。
それが初恋になったり、適齢期の恋愛になる。結婚していると不倫になってしまいますが、そういうエロスのうねりみたいなものは誰にでも宿っているんですよ。
有働 善悪で判断するものではなくて、人間とはそういうものだと。
78歳の初恋
柴門 最近出会った86歳のおばあさんは、67歳で夫と死別して「死ぬまでに絶対恋をする」と決心をしたそうです。お見合いのような形で結婚したので、恋を経験したことがない、と。
有働 アプリを起動させた!
柴門 それで、78歳で初めて恋をして、奥さんと死別した男性と付き合っている。「今の彼とが初恋なんです」と頬を赤らめて。50代だろうが70代だろうが、みな恋をしたら中学生に戻っちゃうんです。
有働キャスター
有働 死別したご主人には酷な気がしますが(笑)。でも、何歳からでもアプリは起動できると。
柴門 ええ。だから危ないと思ったら起動させなきゃいいわけです。
有働 えっ。そんなに簡単にコントロールできるものでしょうか。恋をすると仕事はそっちのけになっちゃいませんか。私の場合は、恋愛か仕事かでいえば、やった分着実に成果が上がる仕事を取りまして、それで今も独身ですけれど。
柴門 そんなこと言わず、恋は時間で区切っちゃえばいいんじゃないですか。私が育児をして漫画を描いていた時はそうやっていましたよ。仕事中は漫画に没頭して、家に帰ったらお母さん。それで子供が寝たら2時間映画を見て、ディカプリオに恋をしたりして。
有働 そういうふうに映画に恋するとか、食事だけ楽しむ程度ならいいですが、現実の大人同士の恋だとベッドも付いてきますよね。「はい、これでおしまい」と出来れば簡単ですけど、のめりこんだり、相手の家族が出てきたりして、自分も苦しくなってしまう。
柴門 そういう人は不倫はやめたほうがいいですね。妻子持ちに近づいてはダメ。もししたとしても、人前で浮かれていたらすぐにバレます。
有働 そうか。じゃあ、不倫する人はスイッチをちゃんと切り替える。そして人には話さない、と。
危険な男からは立ち去れ
柴門 それに危険な男から「立ち去る」ことを学べばいいんですよ。私の友人で、好きになる男性がいつもダメ男という女性がいたんです。彼女が好きになる男性のタイプはいつも、顔もよくて、話も面白いんですが、浮気性で嘘ばかりつく。それで最後は彼女が捨てられてしまうんです。彼女はそんな男性に恋をして2、3回ヒドい目に遭っているくせに、そういう男が近づいてくると、やっぱり心を動かされちゃう。そこで、彼女は警報を出してアプリを起動させず、立ち去ることを学んだそうです。
有働 それ、私のことかと思いました。
柴門 (笑)。今、彼女は真面目な男性と結婚して、幸せに暮らしています。
有働 いや〜、私は無駄に年を重ねて、もうアプリを閉じたままです。違うタイプの男性がきても、「こいつも危険に違いない、もう怪我はしない」と思っちゃう。
柴門 心を閉じちゃダメです。誰かを素敵だと思う気持ちはいつも全開にしておかないと。それで、アヤシイ男性が来たら警報が鳴るようにする。そうやって日々自分を整えておくのが良いんじゃないですか。
有働 なるほど。なんだか私の人生相談になってきましたが(笑)。
柴門 どうぞ、いくらでも(笑)。私は雑誌の企画で、5年かけて職業別に100人ぐらいの方たちからあらゆる恋の話を聞きましたから。でも女性はともかく、男性の恋愛話って面白くないですよ。たいてい「若い頃はモテてね。女を泣かせたもんだよ、ワハハ」と仰るから(笑)。
「処女」は嫁入り道具だった
有働 それにしても、女性の置かれている環境は随分と変わりましたね。私は1991年に社会人になったんですが、85年制定の男女雇用機会均等法世代より後の私たちでも、父親には「結婚するまで処女性を保て」と言われ、社会に出たら「女を売りにしている」と嘲笑されるから女性らしさを消さなければいけなかった。結婚したら報道の第一線からは引かなければならない。それと比べれば、いまは女性らしさを否定されることは無くなりましたし、結婚しても共働きや専業主夫でも驚かれなくなりつつあります。この2、30年で随分変わったような気がしませんか。
柴門 本当にそう思います。私は今年63歳になりますが、結婚するときは嫁入り道具の1つが「処女」みたいな感じでした。私が通っていた女子大では、処女のふりをするために、京都で当時売っていた貝殻の紅を枕元に忍ばせれば、男性を騙せる……なんて話をしていた世代です。要は、「初めて」を証明するために出血したふりをするわけです。
有働 貝殻紅!? そんな術まであったんですか。
柴門 大多数の女性が処女のままで嫁入りしていましたから。それと比べると、現代の女性を取り巻く状況は一変しましたし、いまも過渡期かもしれません。一方で、男性の意識は全然追い付いていない。だから、不倫でも女性のほうが圧倒的にバッシングにあってしまう。
有働 男性社会の目線で、「女のくせに、なぜ不貞を働いた」と。
柴門 男性は、母親が性欲を持ってはいけないと思っているような気がします。
有働 女性もまた、それに応えてきてしまった。
柴門 応えるふりをしてきたんですよ。芸能人こそコンプライアンスが厳しくなっていますが、医者、銀行、商社、そしてマスコミ……。一般人はけっこう不倫していますよ。専業主婦は時間もお金も制限されるし、出会いも少ないから難しいけれど。
有働 昔は専業主婦が多かったから、不倫も少なかったんでしょうか。
柴門 昭和の時代は、ほとんどの家庭で専業主婦でした。男女雇用機会均等法以降は、女性も働いて、楽しい恋をして、独身時代に恋愛をする楽しさを体が覚えているわけです。それで余計、不倫に走りやすいというのはあるかもしれません。
有働 不倫の話ばかりして誠に恐縮ですが、柴門さんは理想の夫婦ですよね。夫の弘兼憲史さんは「島耕作」シリーズで知られています。課長でスタートした島耕作が、社長から会長にまで上りつめ、とうとう相談役になりました。
弘兼氏
柴門 主人公が年を取る漫画は少ないですよね。漫画家の仲間にも「弘兼さん、偉いね。島耕作を72歳にして」と褒められたそうです。
有働 柴門さんは、弘兼さんが他の女性とデートしたり、何かあって怒ったりすることはないんですか。今まで、そういう疑いをもたれたことはない?
柴門 人の耳から入ってきたことはありますが。本人は、「あれは××の会で、他の人もいた」なんて、ちゃんとそれらしい回答を用意して答えていました(笑)。
有働 それを責めたり、深掘りしたりはされない?
柴門 自分が漫画を描くことで忙しくて、ゴタゴタを引っ張れないんですよ。夫婦の問題を引っ張ると、お互いの仕事に影響がでてしまうから、「ここで止めましょう」という暗黙のルールはあるかもしれないです。
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source : 文藝春秋 2020年3月号