【つ】「募ったが募集せず」なぜこれで済むのだろう

日本語探偵

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
ニュース 社会
国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。

【つ】「募ったが募集せず」なぜこれで済むのだろう

 前々回にも触れた「桜を見る会」をめぐる攻防では、ことばの使い方について、何かと衝撃的な実例を見ます。

 とりわけ驚いたのは、首相の「募る・募集」に関する発言でした。1月28日の衆議院予算委員会で、野党議員から「(地元事務所が会の参加者を)募集していたことをいつから知っていたか」と問われ、首相はこう答えました。

「私はですね、幅広く募っているという認識でございました。募集しているという認識ではなかったものです」

 議場はざわつきました。それはそうでしょう。「募る」と「募集する」は、こういう場合は同じ意味で使われます。首相はその後に「新聞等に広告を出したわけではない」と補足していますが、新聞広告を出すか、申込書を配るかにかかわらず、それは「募る」または「募集する」という動詞で呼ばれる行為です。

 政治家の追及のかわし方も、ついに新たなフェーズに入ったと思いました。この答弁を批判する側も、また、「この程度の答弁で十分だ」と支持する側も、答弁自体が支離滅裂だという点では意見が一致するはずです。「主張には整合性が必要だ」という縛りが、あっけなく消滅した瞬間でした。

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source : 文藝春秋 2020年4月号

genre : ニュース 社会