わたしたちは何故Twitterをやるのか。140文字という制限ある「ことば」に、何を乗せて、誰に届けたいのか。この連載では、日々“140文字の言霊”と向き合う人びとが「自分にとってTwitterとは何か?」というテーマで文章を綴ります。第4回の筆者は、ライターのカツセマサヒコ氏(@katsuse_m)です。
「いや、俺、もうフォロワーのアクティブ率とか、そんなに高くないですし。コンバージョン率とか、期待できないんで。影響力とか、そういうところで勝負するのは、ちょっと違うっていうか。あ! ホラ、この人とか、どうですか? ターゲット層の、“若い女性”でしたっけ? そこらへんにも、がっつりハマってますし」
ノートPCを反転させて、得意先の担当者に画面を見せる。表示されたアカウントは、僕よりも多いフォロワー数を誇らしげに掲げていて、10分前に投稿された「おはよう」というツイートが、まさに破竹の勢いでリツイートされていた。もう昼過ぎだ。何が「おはよう」だ、馬鹿野郎。
「あ、この人知ってます! いいですよね! え、カツセさん、相互フォローなんですか!?」
「いや、本当にたまたま、っていうか。Twitterって職業や年齢すっ飛ばして、繋がれちゃうじゃないですか? それでまあ、ええ、実際にお会いしたことはないんですけど。一応、繋がってるっていうか」
「いやー、やっぱりカツセさんもそうですけど、こういう人に頼みたいですよねえ。なんか、ただシェアされればいいっていうわけじゃなくて、しっかりと、こう、ターゲット層って言うんですか? 想定ユーザーに届くような人に、拡散してもらいたいんですよねー」
いいサービスなんで、きっと広まるはずなんですよね。朝の報道番組とか、取り上げられちゃったりして。そういうニュース性も、あると思うんですけどねえ。ユーザー層に、きちんと届けばねえ。
担当者の話に頷きながら、なかなか覚えられないサービス名をぼんやり眺めていた。
ターゲットとか、ユーザーとか、気軽に呼ぶんじゃねえ。俺は、人間だ。
師としている人から、冗談交じりに怒鳴られたことを、たびたび思い出す。カタカナ用語を連発した直後には、あの論理性のカケラもない台詞が、今も必ず脳裏をかすめていた。
得意先としての付き合いが随分長くなった制作会社から、足早に退出する。
エレベーターを降りて通りに出ると、夏にオープンしたばかりのタピオカ屋が、早くも潰れていた。
横目で見ながら、「やっぱりね」と、納得してしまう。立地も悪かったし、出店タイミングも、遅すぎた気がする。
ライターになって、6年。
僕がTwitterを本格的に始めてからも、同じだけの時間が経過したことになる。
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source : 文藝春秋 2020年7月号