夢のプロ入り

巻頭随筆

折田 翔吾 棋士
エンタメ

 11歳で将棋にハマった。奨励会に入り、棋士を目指した。棋士になれたら、将棋を指してお金がいただける。憧れのトップ棋士とも対戦できる。そんな夢のような日々がおそらく一生続く。

 しかし棋士になるためのハードルは恐ろしく高い。奨励会からプロである4段に昇段できるのは年間4名のみ。しかも26歳までに4段になれなければ強制退会だ。

 15年間、生活のすべて、青春時代を将棋に捧げた。プロになれなければ人生が終わると思っていた。しかし、強制退会が近づくと、考え方が大きく変わっていた。

「自分が最も生かされる道は、奨励会退会という挫折を経てプロ入りを実現すること。それは奨励会からプロ入りした棋士には絶対にできないことであり、そんな不屈のストーリーには価値があるはずだ。だからこれからもプロを夢見てやっていこう」

 奨励会から4段に上がる以外に、ひとつだけプロ棋士になる方法があった。「棋士編入試験」だ。

 受験するにはプロ公式戦で10勝以上、なおかつ勝率6割5分以上が必要だ。編入試験は、新人棋士5名と戦い、3勝すれば合格となる。これまでプロに編入したのはわずか3人。もしかしたら奨励会よりも狭き門かもしれない。しかし、私に残された道はそれしかなかった。

 2016年、年齢制限で奨励会を退会した私は就職せず、ユーチューバーになった。ゲーム実況が好きだったので将棋でやったら面白いかも、という思いつきだった。しかし、続けるうちに視聴者の応援を励みに棋力があがったのか、プロ公式戦で10勝2敗の成績をあげ、編入試験の受験資格を得ることができた。退会してから3年が経っていた。

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source : 文藝春秋 2020年5月号

genre : エンタメ