ジョブズは和と禅に人生を救われた

アップル創業者生誕70年

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 アップルストアには日本がある──。1月末、ロサンゼルス郊外の高級ショッピングモールにアップルストアを訪ねて、私は改めてそう思った。日本には、極端に異なる2つの美が存在する。ひとつは桂離宮に代表される簡潔な美、いまひとつは日光東照宮のような豊麗豪奢な美。アップルストアが湛えるのは圧倒的に前者の美だ。

 アップルストアは、IT企業、アップル社を創業し、革新的製品の数々で時価総額世界一にまで育て上げた故スティーブ・ジョブズがオープンした直営店。2001年の第1号店以来拡大を続け、現在の店舗数はアメリカに272、世界では500以上におよぶ。

 この日、私がストアに足を運んだのは、昨秋、アップルが提供を開始した生成AIプラットフォーム「アップル・インテリジェンス」を体験するためだった。ジョブズが逝って14年、最近のアップルは独創性に欠けるといわれるが、どうして客足は上々で、私と同じ目的の人々が熱心にスタッフから説明を受けていた。

ロサンゼルスのアップルストア Ⓒ時事通信社

 アメリカのアップルストアは、実に清々しい。モノトーンの色調は日米共通だが、一般に天井の高さや店舗の大きさがなにより違う。その広々とした空間には、製品が間隔をあけてぽつんぽつんと配置されているだけで、それ以外何もない。何もない空間は、客が集うことにより時々の日本的余白美を描き出し、私に、襖や障子を取り払った武家屋敷の折り目の涼やかな板敷き大広間を想起させた。

 戦前日本に亡命したドイツ人建築家のブルーノ・タウトは、桂離宮を「本物(オーセンティック)」と賞賛し、日光東照宮を「偽物(キッチュ)」とこき下ろした。ところがアメリカでは、桂離宮的枯淡な美の評判はよろしくない。何事もゴージャス好みの国柄だから、みすぼらしいと一蹴してしまうのだ。実際、日本建築から多大な影響を受けたといわれるかのフランク・ロイド・ライトも、感応したのは桂離宮ではなく東照宮のほうだった。

 それなのになぜ、ジョブズはあえてアップルストアに桂離宮の道を歩ませたのか? この解を求める時、思い出すのが古陶磁学者、出川直樹氏の述懐である。00年頃、氏を訪ねたジョブズは「古信楽(こしがらき)の壺を見たい」と希望したという。

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source : 文藝春秋 2025年3月号

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