昭和レトロブームは1971年に始まった

懐古ブームのきっかけは「明治100年」だった

泉 麻人 コラムニスト
エンタメ 社会 昭和史 歴史

 2025年は“昭和100年”を迎えるらしい。昭和元年は西暦でいうと1926年だから、一瞬まだ99年じゃん……と思われるかもしれないが、100年目のスタートをいうならそれでいいようだ。とはいえ、大正天皇が崩御されて昭和の時代が始まったのは1926年も終わろうとする12月25日のことであり、昭和最後の64年は1月初めの1週間しかなかったわけだから、2025年を昭和100年とするのは水増しな感じがしないでもない。

 ちなみに、この元号+100年のフレーズを見聞すると、僕の世代は小学6年生の頃にあった「明治100年」のブームを思い出す。祝典が催されたり、記念切手が発行されたりしたのは1968年の10月だったから、このときは明治元年のスタート(1868年新暦10月)+100年の公式に則(のっと)っていたことになる。当時、切手をはじめ“紙モノ全般”を集めていた僕は、オヤジに中身を喫(す)ってもらってピースの明治100年記念タバコのパッケージも保存していた。銀座あたりを走る鉄道馬車やレンガ建築の街並の錦絵が描かれていたはずだが、この明治100年を機に懐古ブームが幕を開けた、という印象がある。

 レトロというフレーズは当時出回っておらず、ノスタルジーという表現が主流だったが、68年からほんの2、3年後の1970年代に入ると、ノスタルジーの対象に早くも「昭和」の、それも戦後が加わってきた。若者たちの間に「昭和30年代信仰」のようなものが芽生えたのは、1971年頃と思われる。以前、昭和40年代の風俗史をテーマにした本を書いたときに使った、この年の2月27日の日経新聞夕刊に〈「思い出」を追うヤング〉なんて見出しで、こんな記事がある。

「あの日別れて十余年、正義の味方“月光仮面”が帰ってきた――こんなふれこみで27日朝から東京・杉並で風変わりな映画会が開かれた。題して『思い出の少年映画傑作大会』。『なつマン(なつかしのマンガの通称)』ブームに便乗してのこの企画、(略)会場に殺到した若者をさばくのに汗だくだった」

「なつマン」とは、当時中3の僕が愛聴していた深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン」のカメさん(亀淵昭信)の日のコーナーから生まれたフレーズだが、この記事は以降の分析が興味深い。

泉麻人氏 ©文藝春秋

「リバイバルといえば軍歌や『のらくろ』など戦前ものが普通。ところがこんどの場合、わずか10年前の月光仮面や赤胴鈴之助。当時これらのマンガや映画に熱中した子供たちはまだ25歳以下で、夢こそあれ懐古趣味にふける年ではないはず。こうしたおとなの疑問に『展望がないから、夢多き子供時代を振り返るのさ』との声が若者の間から聞こえてきた」

 こういう“わずか10年前”の音楽やファッションを懐かしがって楽しむ風潮は70年代初めに始まっていたのだ。つまり、いわゆる昭和レトロ志向はもう55年ほどの歴史をもつ、ということになる。

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