テレビ東京で『ハイパーハードボイルドグルメリポート』という番組を作ってもう3年。けれどこの名前にピンとくる方は多くないはず。なぜなら、日本では時折深夜に予告なく放送される程度で、皆さんの目に触れる機会はとても少ないから。しかし実は作る端から数多の言語の字幕がつけられ世界中に配信されている、少々変わった番組なのです。
タイトル通り、これはグルメのリポート番組です。しかしそのグルメというのがただの飯ではありません。例えばアフリカの小国リベリアでコカイン漬けになりながら殺し合った元少年兵たちの飯。例えば敵対組織の構成員を幾人も殺して成り上がった台湾マフィア組長の飯。さらにシベリアのカルト教団、セルビアで足止めを食らいながらも国境突破を試みる難民たち、トルコの密航ブローカーの飯。日本では絶対に出会えない人々の生活圏に、僕が1人でカメラを携え「飯、見せてもらえませんか?」の一言で踏み込んでいく。そして彼らと同じ釜の飯を食い、漏れ出る声に耳を傾ける。
彼らの当たり前の営みに同席することで、いつのまにか“異常”な世界と“普通”の世界が転覆する。それがこの番組です。
そしてそれは、僕にとって“自分をゆるす旅”でもありました。
――と、唐突な自分語りをおゆるしください。せっかく“随筆”を書く機会をいただいたのですから、虚栄の筆を折って正直に、今まで人に話せなかった自分のことを話してみたいと思ったのです。
なにも最初から「自分をゆるす旅に出よう」と思ったわけではありません。世界の果てで彼らと食卓を囲むうち、僕はいつのまにか“ゆるされて”いったのです。
かつて僕は非行少年でした。人と争い、物を盗み、目に付く規範を片端から無視した時代があった。人に愛されない存在だった。なぜ自分がそんな振る舞いをするのか、当時の僕には理解できなかった。自分で自分を認めることができなくて、人を傷つけ、自分を傷つけなんとか大人になりました。いわゆる更生をしてからも、僕の中に生じた膿のようなものはいつまでもそこに居座ったままでした。
けれど、それがアフリカの食堂で不意に治癒の兆しを見せたのです。
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source : 文藝春秋 2020年5月号