サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
今回の数字:曽呂利新左衛門が10日目にもらう米粒の数
「曽呂利新左衛門の米」という逸話がある。彼は、豊臣秀吉から褒美を与えられることになり、「米を1日目に1粒、2日目に2粒、3日目には4粒と毎日倍々にして、100日の間いただきたい」と申し出た。秀吉は「何だ、欲のない奴め」と安請け合いしたが、計算してみると莫大な米が必要であることがわかり、謝るはめになったという話だ。現代の単位でいうと、15日目で1キログラム、25日目で1トンを超え、50日も経たないうちに国内の総生産高を上回ってしまう。倍々ゲームの恐ろしさを示す挿話だ。
こうした増え方は「指数関数的増加」と呼ばれるが、爆発的なペースであるので、なかなか直感的に把握しづらい。それでいて、指数関数的増加は身の回りにもよく現れる。1人が2人、2人が4人と感染者を増やしていく、感染症の拡大もそうした例の一つだ。
本稿執筆時点で、日本の新型コロナウイルスによる感染者・死者は、欧米各国に比べて非常に少ない。罰則の伴う都市封鎖などでなく、「自粛のお願い」による緩い対策しか取らなかった日本の被害が少ないことに、他国はもちろん我々自身さえも首をひねっている。手洗いや挨拶などの習慣の差、BCGの効果など様々な説が流れているが、その程度のことでこうも大きな差が生じるものだろうかとも思える。
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source : 文藝春秋 2020年7月号