テレビ東京だけがなぜ面白いのか

上出 遼平 テレビディレクター・プロデューサー
エンタメ テレビ・ラジオ
在京キー局の〝番外地〟がついに学生の就職したいテレビ局ナンバーワンに。話題になる番組を次々と生み出せるのはなぜなのか?テレ東が若者を惹きつける理由とは。4人のPが語り尽くした。(司会・構成=戸部田誠)

テレビ東京を代表する4人のプロデューサー

 ワークス・ジャパンが発表した、就活生が選ぶ「人気企業ランキング」で、テレビ東京が競合の在京キー局を抑え、テレビ局の中で最上位にランキングされて話題となった。かつて“番外地”などと呼ばれたテレビ東京だが、現在はバラエティ、ドラマで次々に話題となる番組を生み出している。

 なぜ今、テレ東が若者たちを惹きつけるのか、その魅力はいかにして育まれてきたのか、個性的な番組はどのように生まれるのか、そしてコロナ禍を経てテレビの未来はどうなるのか――テレビ東京を代表する4人のプロデューサーに語り尽くしてもらった。

 集まったのは『やりすぎコージー』などでテレ東バラエティの礎を築き、現在も『モヤモヤさまぁ〜ず2』や『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』を手掛ける伊藤隆行(47歳 1995年入社)、10年以上続く深夜のお笑い番組『ゴッドタン』を制作しながら、ニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティなど自局内にとどまらない活躍でテレビ東京の“顔”となっている佐久間宣行(44歳 1999年入社)、12年間のバラエティ制作の経験を経て、ドラマ班に異動し、『フルーツ宅配便』『コタキ兄弟と四苦八苦』『きょうの猫村さん』など個性あふれるドラマを作る濱谷晃一(43歳 2001年入社)、そして、入社7年目で初めて企画・演出した、アメリカのギャングやロシアのカルト教団などの「ヤバい世界のヤバい奴らのヤバい飯」を取材したドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』でいきなりギャラクシー賞を受賞した上出遼平(31歳 2011年入社)。

浮足立ってる人がいる

 ――まず就活生の人気ランキングでテレビ局の中で1位になったことをどう思いましたか?

 濱谷 嬉しいけど、正直、気恥ずかしいですね。テレ東の人が触れちゃいけないニュースだと思ってたら、社員がSNSで結構、喜んでいて、やっぱ田舎者っぽいなって(笑)。

 上出 あんまり言いたくないんですけど、やっぱりいい会社っていうのが割とベースにあるんじゃないかと思います。僕もそんなにバリバリやる人間ではないですけど、そんな人にも優しいし、佐久間さんのようにバンバン表に出る人もいる。就活生って、働いた自分がどうなるんだろうっていうのが最大の関心事だと思うんですけど、佐久間さんみたいに楽しそうなオジサンが社員としているとそれを目指したくなる。

 佐久間 こういうものって今のイメージよりも1〜2年前のイメージが反映される気がするんですよ。1年前くらいは上出の『ハイパーハードボイルドグルメリポート』とか確かに自由な番組をいくつかスタートさせていた。でも、1位で凄いって言われてる時には、だいたい内部はダメになってます(笑)。

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 2019年7月に放送された『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』は第57回ギャラクシー賞テレビ部門の優秀賞を受賞。シリーズはスピンオフを含めてParaviで配信中。©テレビ東京

 伊藤 浮足立ってる人がいるよね。偉い人もテレビ東京のことを「テレ東」って言い始めたんだよ。「テレ東」っていうのは元々、「テレ東ってさー」みたいにちょっと小馬鹿にしたニュアンスも入ってるんだけど、社内で「テレ東らしさ」みたいなことを言い始めたんですよ。それはなんか危ねえなって。

 佐久間 テレ東評価の風向きが変わってきたのって伊藤さんの『モヤさま』が最初だと思うんです。その少し前の2005年から『やりすぎコージー』や『ゴッドタン』が始まって、深夜は変わった番組があって面白いねって言われてたんですけど、2010年に『モヤさま』がゴールデンにあがって、下の世代にまでテレ東が浸透したんじゃないかな。

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『ゴッドタン』毎週土曜深夜1:45~放送中。 ©テレビ東京

 伊藤 2014年にゴールデンでテレ東の50周年特番を作ったんです。テレ東ってバカだよなって自虐を思いっきり入れて。それが視聴率10%くらい取って、視聴者の方々が最下位のテレビ東京を愛してくれているんだって実感しました。社内からはバカにしてるのかって怒られましたけど(笑)。開局して50年でちょっと可愛らしいテレビ東京というのが、市民権を得た。だからこそこれからもっと大変になるなっていうのを感じましたね。

 濱谷 ドラマでいうと、僕が入った頃は、『女と愛とミステリー』っていう2時間サスペンスしかなくて。深夜はお色気系。けど、2010年の『モテキ』くらいから、映画監督が撮り始めたり、サブカル漫画原作のドラマが出てきた。それで、フレンチに飽きたから高架下のB級グルメが食べたい、みたいな感じで大物俳優さんなんかも面白がって出てくれるようになった。他局ではできない低予算ドラマがテレ東の追い風のひとつになった気はします。

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ミニドラマ『きょうの猫村さん』毎週水曜深夜0時52分~放送中。©テレビ東京

他局全部落ちて、ここにいる

 ――バラエティでもドラマでも2010年が大きな転換期だったんですね。その翌年に入社した上出さんはどういう印象ですか?

 上出 当時は就活生の間ではやっぱりまだまだ他のキー局よりも一段下という感覚でしたね。僕の印象ではテレ東が脈々と培ってきた文化がゴールデンで花開いた『YOUは何しに日本へ?』や『家、ついて行ってイイですか?』が「変わったキー局」というポジティブなイメージを決定づけたと思います。

 濱谷 その頃から企画募集に対する外部からの応募が圧倒的に増えましたね。それで外部の人が思い描く、「テレ東らしさ」の歪んだ感じにびっくりしたりする(笑)。他局で通らないことを「テレ東らしさ」と呼んでるのでは? と。でも、『モテキ』や『孤独のグルメ』等のヒットドラマも他局がみんな断って、最後の砦のテレ東で企画が通ったそうですね。

 伊藤 社員も似たようなもんだから。他局全部落ちて、ここにいるんだもん(笑)。

 濱谷 「よくこんな企画通ったねえ、やっぱテレ東は自由だなあ」って言われることが多いんですよ。企画が通りやすいイメージがあるのかもしれないですけど、基準が独特なだけで決して簡単に通るわけじゃない。むしろ自由に見える企画って、3年くらいかけて、ものすごくネゴしたり、通るべくして通ってたりするんですよね。

 佐久間 『フルーツ宅配便』も最初は落ちたんじゃなかったっけ? 一緒に飲んだ時に愚痴ってた(笑)。原作面白いのにデリヘルを舞台にしてるから難しいのかなって思ってたら、濱谷が映画監督の白石和彌さんを連れてきたのは驚きましたね。そういう時って面白いドラマになるよね。

 濱谷 ドラマは有名原作と有名俳優で視聴率に保険をかけることが求められてはいるんですけど、それはあんまり自分がやる必要ないなって、まだ考えちゃうお年頃なんで(笑)。デリヘルをテーマに女性の貧困をテレビで描いて、それを白石和彌さんが撮るっていうのは、地上波では僕しかやらないだろうって思うとすごいテンションが上がるんですよね。そういうのを優先するから企画が通らない確率も高いんですけど。

面白いからやってるんです

 ――みなさん、どうやって企画を立てているんですか。

 伊藤 僕は企画を立てる時、あんまり計算とかはしないですね。

 佐久間 マーケティングとかロジックとかじゃないですもんね。

 伊藤 やっぱりそこから外れたものじゃないと当たらないっていう感覚はありますね。「なにこれ?」って思ってもらえるものじゃないとダメ。だからきょとんとされることも多い(笑)。最近だと『池の水ぜんぶ抜く大作戦』もそうだけど、こんな題材、普通、ゴールデンの番組ではあり得ない、1時間作れないってところから入りたがりますね。それでこけちゃったりもするんだけど。

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『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』日曜夜7:54~月一レギュラー放送中。次回放送は7月26日。©テレビ東京

 佐久間 普通、こけちゃった後ってスイングスピード遅くなるじゃないですか。でも伊藤さんはどれだけ外そうが、スイングスピードが速いんですよ。だから当たるととんでもない飛距離が出るんです。相手ベンチからのヤジとか気にしないメンタルの強さがある。日本語のわからない助っ人外国人みたい。

 伊藤 いや、そもそもお前はバッターボックスに入るのにバットすら持ってないって言われるから(笑)。

 佐久間 僕は、「これ面白いのになんでこういう番組ないんだろう」「俺、この人すげえ好きなのに、なんでテレビ出てないんだろう」っていうのが企画のきっかけなんです。

 伊藤 佐久間は“好き”の延長で番組を作ってる気がする。愛があるんですよ。昔っから「面白いからやってるんです」というのが一貫していて人間的に全く成長してない(笑)。

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『モヤモヤさまぁ〜ず2』毎週日曜夜6:30~放送中。©テレビ東京

 上出 かっこいいですねー。

 佐久間 究極的に言うと、僕は自分を作り手だと思ってなくて、ファンなんです。好きなものが増えたほうが楽しいし、この人が売れたほうが面白いからと思って、ファン目線で番組を作ってます。

 濱谷 自分は、さっきの『フルーツ宅配便』もそうですけど、着眼点や組み合わせの妙などを大切にしています。でも、以前、「有名原作で、有名俳優が出て、グルメも楽しめて、大人も楽しめる、そんな攻めた企画を募集します」っていう企画募集があって。そんな企画攻めてねえよ! と毒づいたんだけど、その後、『きのう何食べた?』が放送されてるのを見て、あ! めちゃくちゃ攻めてるなと思って(笑)。こういうのが僕には足りないなと反省しましたね。

 伊藤 やられた、という番組はあるよね。最近だと『ポツンと一軒家』。僕、『世界の超!絶景ハウス』というのをやったんですよ。世界中からグーグルアースでなんでこんなところに住んでるの? という家を探して訪ねる番組。で、新聞のテレビ欄に毎回、「こんなところにぽつんと一軒家」って書いてた。これ、国内でもできるんじゃないかな、と思った矢先にやられちゃった。なんで気づかなかったんだろうって思うよね。

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source : 文藝春秋 2020年8月号

genre : エンタメ テレビ・ラジオ