このところ世間には「ざんねんな」人が次々と現れ、「ざんねんな」出来事が増えている。嘘をつく、欲が深いなど、ヒト特有の習性が一部の人間に現れたものだ。そんなことの多い世の中に『ざんねんないきもの事典』が発刊されたものだから、当初はこの手の「ざんねんな」、つまり人間から見て軽蔑すべき生き物の事典と思われた人々が多かったようだ。アンケートはがきで寄せられた感想などを読んでわかった。
たとえば「『ざんねんな』という言い方が気に入らず購入を悩みましたが、年長の息子の食いつきがよく、ひとりで文字を読む練習にもなると思い購入しました」とか、「『ざんねん』なんて言い方、ちょっとひどいwwって思いましたが、子どもの『なんで?』『どうして?』を満足させるおもしろい本です」などと、「ざんねん」を本来の意味に近いマイナスのイメージに捉えていたようだ。
しかし、子どもたちはそんなことは関係なく読んでくれたことがわかる。
「タイトルに『ざんねん』とかいてあったので、何が残念なのか……。とにかく読んでみましたが、とても面白かったです」、「小学4年生の娘が夢中になって読みました。いろいろな『ざんねん』さんがいて、とても面白いです。親子で思わず『へぇ〜』と言ってしまいます(笑)」と、タイトルの意味を感じ取ってくれた親子。さらには、「『クジャクの羽は長すぎてじゃま』『サイの角はただのいぼ』『イルカは眠るとおぼれる』……。進化の結果、なぜかちょっと残念な感じになってしまった生き物たち。とてもおもしろい本でした」と、タイトルの意味をより具体的に捉えてくれた子どもたちも少なくなかった。
そう、ここで言った「ざんねん」は人間の上から目線ではなく、「ちょっと残念だったね、次は頑張ろう」くらいの軽いもので、生き物の進化から取り残されたものたちでも立派に生きていることを子どもたちに知らせたかったのである。生き物は進化したものこそが素晴らしく、最終的に生き残るのだ、などと早合点している人が多いが、この地球上には進化したものから原始的なままのものまでみんな生きている。いろいろな生き物がいることが生物多様性であり、お互いに関わりあって生きているのである。
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source : 文藝春秋 2020年9月号