今年、そろって大関昇進。相撲界の未来を担う2人が胸のうちを明かす
<この記事のポイント>
●2020年に誕生した若き新大関、朝乃山と正代。そんな横綱候補の2人にインタビュー
●朝乃山は「俺は横綱になる」と口にする“有言実行”タイプ
●正代は「目標は、プレッシャーになるから口にしない」という“無言実行”タイプ
“無観客開催場所”で大関昇進
2020年、大相撲界に朝乃山(26歳・高砂部屋)と正代(29歳・時津風部屋)の、ふたりの新大関が誕生した。
今年、角界もコロナ禍で大揺れに揺れた。1月の初場所は通常開催されたものの、プロ野球、Jリーグ、歌舞伎や演劇などの他競技や興行が軒並み中止・延期されるなか、3月の大阪場所は“無観客開催場所”として決行された。その稀有な場所で大関昇進を決めたのが、朝乃山だ。
元横綱太刀山以来、実に111年ぶりの富山県出身大関となり、一躍故郷の英雄に。小学生時代から地元のクラブで相撲を始め、富山商業高校から近大へ進学、大学時代は目ざましい成績は残さなかったものの、当時の新制度「三段目百枚目格付け出し資格」を得て2016年3月、高砂部屋に入門する。
身長189センチ、体重174キロの恵まれた体を持ち、右四つ左上手を得意とする四つ相撲の本格派だ。昨年の5月場所では平幕優勝を果たし、トランプ米大統領杯を授与されて、その名を売ったのも記憶に新しい。
大関昇進の目安は、三役在位中に「3場所通算勝ち星合計が33勝以上」と言われているが、朝乃山の場合は、前年の11月九州場所では小結の番付で11勝、新関脇となった今年初場所では10勝、大阪場所では11勝の成績だった。
朝乃山本人はいう。
「数字上はちょっと足りなかったですけど、前に出る相撲内容と、千秋楽に先輩大関の貴景勝関に勝ったのが評価されたと聞きました。素直に嬉しかったです。昇進後、普通は忙しいはずなんですけど、コロナの影響で引っ張りだこにもならなくて、疲れなくて良かったですね(笑)。でも自粛生活が続いて外出もできず、5月場所が中止になったし、『僕って本当に大関なの?』って実感がなかなか湧かなかったです」
そう言って無邪気さが残る笑顔をみせる。大関お披露目は7月場所。実に4ヶ月後のことだった。優勝争いをリードするも、13日目、元大関で序二段から復活してきた照ノ富士に完敗する。翌14日目は小兵の照強に足を取られてひっくり返され、12勝3敗の成績で賜杯を逃す。今でもその悔しさは拭えないようだ。
「7月場所で照ノ富士関に負けて帰った時に、親方に、『ああいう大きい相手にはかましていけ』と言われたんで、先の9月場所ではかましていこうと、朝起きた時には決めていたんです。でも土俵際まで持って行ったのに最後の一歩が出なくて……。相手が崩れたところで咄嗟に反応して安易に投げに行ってしまった。7月の照強戦も『一発狙いで足を取りに来るだろう』と頭の隅に入っていたんですよ。でも、いざとなったら自分を見失っていた。そこが自分のまだまだ弱いところです」
対照ノ富士戦の幕内対戦成績は0勝2敗。「苦手だとか、やりにくいとは言いたくない。言葉にすると意識に残ってしまいそうで」と口を固く結ぶ。
新大関2場所目となる、白鵬と鶴竜の両横綱不在の9月場所は、並々ならぬ覚悟で臨んでもいた。
「余計なことを考えてしまっていました。横綱がいないんで大関が優勝しなくちゃいけない。世間の目もそうだし、自分らの立場から考えても、それが当たり前だと思ってました」
7月場所は朝乃山が勝利
3連敗で吹っ切れた
しかし、初日からまさかの3連敗を喫し、大関として初めての試練の場所となってしまった。
「3連敗した夜、親方から呼ばれました。僕の顔を見るなり、『大丈夫か?』『はい、もう大丈夫です』『体は動いてるから落ち着いていけ』とだけ言われました。3連敗した時は、ある面、吹っ切れていたんですよね。『もういいや、優勝できなくてもいい。ここで相撲人生が終わるものでもないし落ち込んでる場合じゃない』と開き直れていたんです」
くわえてこんな欲もあったという。師匠の高砂親方(元大関朝潮)は今年12月に停年退職を迎える。大関に昇進した直後から「師匠の停年までに横綱になって恩返しをしたい」との想いを、密かに胸に秘めていたのだった。
「5月場所は中止になってしまいましたけど、『あと3場所ある』と考えていたんです。でも、この9月の成績ではもう間に合わなくて……」
10勝5敗の成績で終えた先場所の反省点は、大いにあると顔を引き締めた。苦渋に満ちた場所を終え、「心技体」についても思いを馳せる。
「大関の勝ち越しは2桁の10勝と言われていますけど、考えたら両横綱はいなかったし、不戦勝がふたつありますから。そこは今の自分の実力、事実として受け止めないといけないです。7月場所もそうでしたが、ここ大一番に勝てなかった。『勝つぞ、勝てる!』という気持ちが弱かったかもしれないです。体はあるほうだと思うんだけど、技術面は磨くしかないですし。そこでさらに心も磨かなくてはいけない――」
ついつい顔に感情が
かつて同じ右四つで横綱になった元武蔵丸の武蔵川親方は、技術面について、こうアドバイスをする。
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source : 文藝春秋 2020年12月号